第十一話 初日の朝
結局、昨日は二人に夕食を振る舞うことになり、スキアも交えて四人で夕食を食べた。
流石にあの二人も朝からは来ないようで朝は静かにスキアと朝食を食べ、学校に向かった。
「ラフォス君昨日は夕食をごちそうしてくれてありがとう。また食べに行ってもいいかしら」
昨日の元凶の一人がまた食べに来ると言っていた。
「会長、昨日だけという話だったと思うんですが」
「そうだったかしら。覚えてないわ」
これは確定事項らしい。
こうなると会長はなかなか譲らない。
証拠があればいいのだが、口約束だったので証拠らしい証拠もなく諦めて次も料理を出すしかないようだ。
そしてたぶん一緒にスティーブンも来るのだろう。
「それにしても、昨日は二人とも魔力をだいぶ消耗していたみたいだけれどどうかしたの?」
「直前まで班員と特訓をしていたからだと思います」
「そうだったのね。いつもならもっと長引くし、接戦のはずなのにおかしいと思っていたの。ラフォス君と同じ班だとスティーブン君とアリアさんとシャルロットさんね。アリアさんは防御魔法は苦手だけど、攻撃魔法が得意だしラフォス君には劣るけど武術の心得もあるのよ。シャルロットさんは防御魔法が得意で切り札の魔法も強力だし、良い班員ね。スティーブン君は実力もわかっているしね」
「確かにバランスは良いですね」
「それにしても今日から本選だけど緊張とかしてないの?」
「緊張はしてますけど、一番の敵はスティーブンですから気が楽なんですよ」
「確かにそれなら気が楽ね。それにしても二人が万全の状態で対決したら演習場の地面の修復が大変だったから助かったわ。まあ今日は万全みたいだから修復が大変そうだけど…
それじゃあ本選頑張ってね」
会長は応援の言葉を残し、教室へ向かっていった。
「おう。ラフォス昨日はどこ行ってたんだ」
「そうよ。いきなりいなくなっちゃうから驚いたんだからね」
教室に入るとすぐにレイやシリスから昨日のことについて質問された。
「説明するから二人とも落ち着いて。昨日俺を呼んでいたスティーブンは覚えている?」
「昨日ラフォスを呼びにきていた男子生徒よね」
「昨日ラフォスが逃げようとしたやつだな」
「そういえば学年首席と同じ名前ですね」
「あれ、そうだっけ」
「そうですよ。ほら入学式のときに名前が呼ばれていたじゃないですか」
「そういえばそうだったわね。同じ名前の生徒が二人もいたなんて驚きね」
「確かにそうだな」
「えっと皆さん盛り上がっているとこ悪いんだが、今話題に挙がっているスティーブンは学年首席のスティーブンだよ」
「「へぇ~学年首席のスティーブンか~。学年首席!!」」
「やっぱりそうだったんですね。それだとラフォス君は12階聖なんですね」
「そうだよ」
「「そうだったの!?」」
「あーでも言われてみれば納得かも。上級魔法もいくつも使えるみたいだし」
「確かにな」
一通りレイとシリスが驚き終わり、勝手に納得し終わった。
ユキさんが俺のことを12階聖と思っていたのは意外だった。
「話が逸れましたが、ラフォス君は昨日どこに行っていたんですか?」
ユキさんが話が逸れかけていたので修正して俺に質問した。
「昨日は演習場に行っていたんだよ。そこで同じ12階聖のメンバーと特訓していたんだ。昨日の予選に12階聖は参加できなかったんだ。だいぶ前に討伐系の予選で12階聖が倒し過ぎてからは他の生徒の分がなくなったらしいんだ。だからそれ以来12階聖は参加しなくなったらしいんだ」
「そんなことがあったのね。それなら参加できないのも納得ね」
スティーブンから聞いた話を三人にすると、三人は納得したようだった。
「ところで三人は昨日どんな予選を受けていたんだ?」
俺が質問するとレイは得意気な表情を、シリスは苦々しい表情を、ユキさんは苦笑いを浮かべた。
「何かあったのか?」
「実は昨日はラフォス君がいなくて他の人たちもある程度グループができていたので私達三人で一緒に行動していたんですが…」
「シリスがピンチになったから俺が助けたんだよ」
「アイスゴーレムさえ出てこなければあんたの助けなんていらなかったわよ」
「アイスゴーレムが出てきたのか」
「はい。先生方がアイスマンやクレイマンを魔法で造りだしてそれを私達が撃破していったんです。その記録が予選が始まる前に渡された魔道具に記されていってその結果で順位が決まったみたいです。ただその中にアイスゴーレムやサンドゴーレムといった上級魔法のものも混じっていたんですよ。そのせいで中級魔法では倒せず、武術も武器の使用が制限されていたので破壊することができずにいたんですが、レイ君が火属性の魔法を使って倒してくれたんですよ。そのあとからシリスは機嫌が悪くて…」
「別に機嫌なんて悪くないわよ。ただこいつに獲物をとられたのが悔しかっただけよ。私達だけでも倒せたのに」
「ぜんぜん倒せそうになかっただろ。俺が見つけた時はもう負けそうだったし」
「そんなことないわよ。私達だけでも勝てたんだから」
「二人とも落ち着いてください」
またいつものように二人の言い争いが始まりユキさんが止めにはいるという光景に落ち着いたのだった。
「それで三人とも本選に進めたのか?」
「当たり前だろ」「もちろん」「はい。何とか進めました」
レイとシリスは自慢気にユキさんは笑顔でそう答えた。
「おーい皆席つけ。今日の説明をするぞ」
フェニクス先生が教室に入ってきてクラス全体に声をかけた。
フェニクス先生の言葉を聞くとクラスメイトは素早く自分の席に戻っていった。
今日の話にかなり興味があったらしい。
「じゃあ説明するから話を聞いておけよ。まず今日は9時から魔武大会が開始される。最初の30分は開会式をやるがこれは参加したいやつだけ参加すれば良いからな。まあ学園長と生徒会長、あとはゲストの挨拶とルール説明があるぐらいだな。第一闘技場で行われるぞ。そのあとはそれぞれ四つの
闘技場に別れて試合開始となる。試合に参加する生徒は8時30分までに第二闘技場に集まるように。そのときに試合に参加する生徒は大会の資料が渡されるから目を通しておくように。あと、今日は他の学年の生徒も授業がないから試合を見に来るから迷惑をかけないようにな。一応12時から一時間は昼食休憩になっついるからな。それじゃあ話も終わったし各自あとは勝手に動け」
フェニクス先生は説明し終わるとそのまま教室から出ていってしまった。
途端にクラスはざわめきだし周りのクラスメイトたちと魔武大会について話始めた。
「俺はそろそろ行くけど皆はどうする?」
「それなら私達も一緒に行きます」
「そうね。どうせ行くんだし一緒に行くわ」
「俺も一緒に行くぜ」
満場一致で俺達は第二闘技場に向かった。
第二闘技場にはすでに二十人ぐらいの生徒が集まっていた。
よくみると十人くらいの生徒の腕には生徒会と書かれている腕章がつけられていた。
「ラフォス君もう来たのか。早いね。準備はもうできているのかい?」
「バジル先輩おはようございます。はい。もう今できる準備はもう完了しています」
「見たかんじ魔道具の類いは持っているようには見えないのだが、魔道具は使わないのか?」
「はい。これでも12階聖ですし、今回は魔道具は使わずに戦います。そういえば、魔道具は使用可能なんですね」
「まあそこは毎年問題になるところなんだが、生徒の中には魔道具を使うことでいつも通り戦えるという人もいるらしいから殺傷能力が高くないものに限定して使用の許可を出している。この規定は他の武器の使用と同じだな」
「それでも毎年規定外の武器を使用しようとする生徒が必ず出てくるのよね。だからこの説明会で私達、生徒会が武器の使用も確認しているのよ。魔道具を使ってね」
毎年武器の使用は違反者が出ていることにも驚きだが、それ以上に武器の種類を判別できる魔道具を教員の立ち合いなしで使用させていることに驚いていた。
武器の種類を判別できる魔道具は判別する武器の殺傷能力や魔法の能力や特殊性などを十段階で測定する魔道具だ。
この魔道具はその性質上どうしても複雑な作りになる。
そのため魔道具に使用する材料はかなり高価なものになり魔法も複雑なものになる。
さらに防犯面でも相手の所持する武器の種類を判別できることからかなり役立っている。
そして敵対するものに所持されると自身の武器の性能が大まかにわかってしまう。
その結果、多くのこの魔道具を所有するものは管理を厳重にし使用するものも少なくするのが基本であった。
「この学校の魔道具管理はどうなっているんですか?」
質問せずにはいられなかった。
けっして俺がおかしいわけではないと思う。
「大丈夫よ。きちんと学園長の許可ももらっているし、鍵もかけているから問題ないわ」
「それでもよく許可がおりましたね」
「まあそこは色々とね。ところでラフォス君と一緒にいる三人は誰かしら?」
誤魔化された気がするが、会長は俺の後ろで固まっていた三人のことをたずねてきた。
「そうですよ。三人とも俺のクラスメイトで右から順にレイ、ユキさん、シリスです」
「私は生徒会長のシルビアです。彼は生徒会会計のバジル君。レイ君、ユキさん、シリスさんよろしくね」
「「「よろしくお願いします」」」
会長にあいさつされた三人は固まったまま勢いよくあいさつをした。
「皆は本選に出場する選手よね。なら少し早いけど先に説明をしておくわね。本選はまず四ヶ所に別れて行われます。この場所を決めるのはこれからくじ引きで決めます。ただし12階聖はすでにどの会場か決められているのでラフォス君は間違って引かないようにね。くじには場所と自分の試合が何番目か書かれていてそれをこれから皆が行く闘技場の入り口の先生か生徒会の生徒に渡してください。そうしたら自分の試合開始時間を教えてくれるから10分前には控え室になっている部屋にいるようにしてください。試合開始時間から5分たっても現れなければ失格になります。あと同じ選手の試合と試合の間にはだいたい1、2時間ほどの休憩時間があります。その間は闘技場の外に出ても問題ありません。次に試合で使える道具はこの魔道具の判定を受けて規定内であったものだけです。それ以外のものを持ち込んだ時点で失格になります。控え室で最終確認してから試合にでるようにしてください。最後にこの試合はトーナメント方式です。一回負けたら試合終了で、各会場ベスト4が出た時点でその生徒は決勝トーナメントに進出します。決勝トーナメントは第一闘技場で行われるから決勝に進んだら会場を間違わないようにしてください。何かこの大会について質問はありますか?」
会長の説明後に俺達に問いかけてきたが、特に質問は出なかった。
「じゃあ三人はくじ引きに向かってください。ラフォス君は少し残ってね」
会長の言葉に俺達は少し首をかしげたが、指示通り三人はくじ引きに俺はそのまま残った。
「会長、用件はなんですか?」
「いきなりで悪いんだけれど、君には魔武大会の間選手としてだけではなく、生徒会補佐としても働いてもらいます」
「会長、やはり一年生の大会中は選手のみに専念してもらうべきではないですか?」
「その話はさっきもしたでしょ。バジル君の言うことも一理あるけど、すでに補佐役員になっているわけだし、なにより今年は人手が足りないから仕方がないじゃない。現役員のほうが問題を起こす時もあってその対処に人をさくから余計人手が足りなくなるのよね」
「それは確かにそうですが、でもラフォス君はまだ仕事がわかりませんよ」
「だからこそよ。一年生の大会中に仕事を覚えてもらって問題の他の学年ではしっかり仕事をできるようにしておかないともたなくなるわよ」
「確かにそうですね。そうすると誰が指導につきますか?」
自分のことなのに蚊帳の外にいながら確かに誰が指導につくのかと考えていたら会長は笑顔をバジル先輩に向けた。
「もちろんバジル君あなたよ」
「やっぱりですか」
「本当は私が教えたいんだけど、流石に忙しいし他の子達は何か余計なことを教えたり問題を起こしそうだからお願いできるかしら」
「わかりました。同じ会計の先輩としてしっかり指導します」
「そういうことだからラフォス君お願いね」
「あのー拒否権は?」
「魔武大会中の全部の食事」
「わかりました。引き受けます」
どうやら拒否権はなかったようだ。
流石に魔武大会中の会長の全部の食事を作れよりはそっちのほうがましである。
「じゃああとはバジル君に聞いてね。仕事場所はラフォス君が出場する会場と同じ第三闘技場だから」
そう言って会長は俺とバジル先輩を残し去っていった。
「それじゃあ魔武大会の間よろしく。ラフォス君」
「こちらこそバジル先輩、よろしくお願いします」
「移動しながら説明するからまず第三闘技場に行こうか」
こうして初めての魔武大会は初日から波乱の幕開けとなった。