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ざ..ざ..
波の音が聞こえる......
俺はこの音が好きだ。こうして砂浜を歩いてると心が落ち着く。
もう落ちそうな太陽が赤い光で砂浜を照らしている。
こうしてここから広い海を眺めるのも好きだ。壮大な海が自分を包んでくれるように感じる。
そんなことを考えながら視線を海から戻そうとすると、波打ち際にビンが落ちているのを見つけた。いつもの俺なら気にすることなく無視していただろうが、その日の俺は何かが違った。サンダルをはいていたから海に入ってみたかったのかもしれない。まあとにかくビンが気になったのだ。
足の裏が冷たくなるのを感じながら、俺はビンを拾った。
「紙....?」
中には折りたたまれた紙が入っている。この流れはもしや..なんて思い、ビンの中身を取り出した。
『
拝啓 この手紙がいつ、どこで見られているかはわかりませんが、元気ですか?
これはいわゆるボトルメールってやつです。一度やってみたかったのでやってみました。この手紙を読んでいるあなたはどんな顔して読んでいるのでしょう? どんな方なのでしょう? 私と同じ年くらいだとうれしいなー。
私は15才、女の子です。明里市から流してます。本当はもっと何かを手紙に書こうと思ったけど、
これを読んだあなたがもしよければ下に書いたメアドにメール送ってくれるとうれしいです。
......@......
敬具
4月1日 清水 ひかり
この手紙を見ているだれかへ。
』
......どういうことだ? 取り敢えず落ち着こう......stay cool......
......状況を整理しよう。まず、俺がこの手紙を読んでいるここは明里市だ。そして流したであろう4月1日は昨日である。つまり、このボトルメールはあまり流されることなくすぐ近くの海岸に打ち上げてしまったわけだ。きっとこれを流した女の子(?)はこのボトルが遠いところに流れ着くと思ってるに違いない。....なんですぐ打ち上げられるような所から流したんだ? もしかして結構抜けてるやつなのか?
まあそれはいい。問題はこれを拾った俺がどうするかだ。ここはこのメールに返信してみるべき..なのかもしれないが、俺は流した次の日に返信して「明里市の海岸で拾いましたー」なんてことを言うような馬鹿ではない。
もし俺が遠くの人に届けばいいなー返信きたらいいなーと夢見て流したボトルメールが、流した次の日に近所の子から返信が来たらがっかりするに違いない。
取り敢えずこれは保留して、家に帰ってからどうするか考えよう。今すぐ返信するべきものでもないし。
もうすぐ高校の入学式だというのに変なものを拾ったもんだ.... まあ自分から拾いに行ったのだが。
なんて思考に一区切りつけた俺は、そんなことを考えた次の瞬間からはもうすぐ来る高校生ライフに思いを馳せながら、うきうきしながら家路についていたのだ。