表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前の席の彼  作者: ゆっこ
1/1

1

現在、私には、気になる人がいる。


いや別に気になっているとは言っても、別に恋だとか愛だとか、そういう類のものではないことを先に言っておく。

ただ、気になるのだ。その人が。

興味ともいうべきかもしれない。

その人、もとい彼は、授業中、いつも足を机に投げ出し、椅子を後ろ脚だけでギーコギーコとなんとも椅子が悪くなりそうな音を出しながら座り、口をかすかに開け、薄目を開けて寝ている。


なんとも間抜けだ。


私が最初に彼を見かけたのは、偶然にも彼の前の席になった時だ。

ある時、プリントを後ろへ回そうとしたら、いつになっても受け取るそぶりがないので、ふと後ろを振り返ったら、彼がそんな感じでぐーすかと寝ていた。

その時の私は特に気にもせず、ため息を一つついて彼の机にプリントを置いてあげた。

一度だけだったら特に気にも留めなかったのだが、それが毎回、後ろを向く度に寝ているのだ。


いつもは大人しい私は、毎回こうであるとさすがに怒った。

一言で言えば、めんどくさいからだ。たかが一枚のプリントのためにわざわざ立って彼の後ろへ渡しにいくのがめんどくさい。そんなことに貴重な労力を使いたくない。

一時は叩き起こそうかと思ったほどだ。しかしその怒りは長続きしなかった。

それは席替えがあったからだ。


席替えを行うと、私は運よく彼の前から離れることができ、彼の真横の席になった。

別に彼の前でなければ、私への害はない。しばらく彼を観察することにした。

まあ観察といっても、そんな四六時中観察するほど私は暇ではないので、時折気に掛ける程度の観察をし始めた。


すると驚くべきことがわかった。

なんと彼はほとんどの授業で寝ているのだ。

私が授業中、チラと彼のほうを見ると、必ず寝ているのだ。まっさかー高校生なのに、と思うかもしれないが、これは本当である。毎回毎回飽きもせず、同じポーズで寝ているのだ。そしてチャイムが鳴ると同時に必ず起きる。その繰り返しだった。

ちなみに一度も授業中起きているところを見たことが無い。


だが、授業では先生が一方的に話すだけでなく、生徒へ質問を投げかけることが多々あるはずだ。しかし、そんなことを気にも留めずに、彼はすこやかに寝ている。先生たちは、慣れているのか諦めているのかなんなのかはわからないが、誰も彼に当てようとも注意をしようともしない。


なぜだ。

私は不思議に思ったが、いちいち先生に聞くほど彼に興味はなかったので頭の中で考えるだけだった。


ただし、そんな彼にも例外があった。

それは体育と保険体育だ。

その二つの授業になると、彼は人が変わったように真面目に取り組む。その様子は、まるでどこかの小学生のようだと思った。

驚くべき事実をを知った私は、酷く彼が気になった。


だって面白いじゃないか。


彼の顔は、目が細い上に眉と目の間が近くて、いつも不機嫌そうな表情をするから一見、どこかの歓楽街の頭をはっていそうな人に見える。それに加え長い手足に高い背丈で、しかも体つきはバスケかバレーの選手のようだ。これで髪が金髪だったらそのものだが、そこはなぜか普通に黒髪でアシメをしてるくらいだった。

こんな感じの風貌だからか、完全にクラスの人からは遠巻きにされている。


そんな彼が、体育と保健体育の授業には真面目なのだ。

そのギャップに私はお腹がよじれるほど笑った。


そして真面目な彼を見るため、毎週火・木曜日になると彼を必ず見るのが日課となった。

もちろん、その曜日には体育と保健体育が入っているからだ。体育は女と男で分かれているので、あまり見ることができないが、保健体育は姿勢を正して座る彼を見れるから、なかなか面白い。というか見る度に笑えるので、笑いを我慢しすぎて顔が変形しそうな勢いだ。

そんな観察をこっそり、本当にこっそり続けていると、今年に入って6回目の席替えがやってきた。


結果は窓側の一番後ろの席、というクラスの中で一番ラッキーな席を手に入れた。

おまけに彼が前の席にいるという偶然にしては面白い出来事が起こった。

なんだかこの人と縁があるのかなあと少し思い始めてきた私だった。




9月28日金曜日の2限目。

この時間は現国の時間だ。うちのクラスを担当する現国の先生はおじいちゃん先生だから、お経のように聞こえて私でも眠くなる。

私はいつものように、前の寝ている彼を視界に入れながら、ぼーっと黒板を眺めていた。時折、窓の外を眺めては先生の話を聞いていた。

そうしてると、先生から期末用の対策プリントが配られた。

私はその時ハッとした。そういえば、前にはいつもどおりぐーすかと寝ている彼だ。

これでは私が、わざわざ彼の前の人へ取りに行かなければいけないのでは、と気付いた。


なんと…目先の面白い出来事に捕らわれてしまった。結局は一つ前の状況と同じじゃないか…!

今まではめったにプリントが配られないんでうっかりしていた。

前の人がこっちまでプリントを持ってきてくれればいいのだけど、まあ期待はしないでおく。


ああ、まためんどくさいことが始まってしまった…この微妙にめんどくさい状況が嫌だ。

私は内心で頭を抱えながら、取り行こうと立ち上がった。


しかし、私が立ち上がったと同時に、なぜか前の寝ていたはず彼が動き出した。

そして前から配られるプリントを受け取ったのだ。

その一連の動きに対して、私の身体に衝撃が走った。私はぽかーんと口も目も大きく見開いて驚いた。


あ、あの人がう、動いた…!!


後から振り返ると、その時の私の驚きようといったら、まるで某外国アニメの、車いすの少女が初めて立った時に受けた主人公の衝撃と同じくらいだったはずだ。

大きな衝撃を受ける私を差し置き、目の前の彼は何事もなかったかのように私にプリント渡してきた。

私は立ったまま、暫し呆けたように彼を見ていたが、彼は眉をしかめて私に再度プリントを差し出してきた。

その動作に我に返って、慌ててプリントを受け取った。

彼は私が受け取ると、また何事もなかったかのように元の体勢で寝に入った。

私はすとん、と力が抜けて椅子に落ちた。


え、え、ええ――!?

起きないんじゃなかったのか…!?

というか、初めて真正面で顔を見た気がする。


私は内心で酷く動揺した。

しかし本当に驚いた。これは、動かないはずの大きな山が動いたようなものだ。

一体、なんで動いたんだろう…今。

今まで動かなかったのに。なんでだ。なんでなんだ。


結局、私はチャイムが鳴るまで変な興奮状態のまま、ずっと考え込んでいた。



勢いで始めました。続くかどうかは明日の私の気分次第です…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ