9話
遅くなって申し訳ないです
先手必勝!
クルーグカに飛び掛かり双天爪牙が発動したことで伸びた爪を一閃する。
―――キンッ!
「!?」
傷を付けることができず、金属同士の音を響かせ爪は弾かれてしまう。それもそのはずだ。あの蜘蛛は鉄化するスキルを持っている。簡単にはいくはずがない。
―――ならこれはどうだ!
「氷の刃となり敵を穿て “氷槍”!」
氷の槍が出現し、蜘蛛に向かって放つ。槍が激突する。しかし、皮膚を貫くことはなく、いとも簡単に砕け散る。
「やっぱりダメか・・・。これなら効果があるか・・・・!?」
魔力を右手に集中し、イメージにより属性を変化させ魔法を発動する。
「雷の刃となり敵を穿て “雷槍”!」
雷の槍はクルーグカに向かって飛来し激突。直後に一度身体を大きく震わせる。これも効果がないと思ったがそうでもなかったようだ。
皮膚が鉄のように硬くなっても中身の内臓、筋肉まではスキルの効果がないのか動きが鈍い。それになにやら焦げくさい臭いを辺りに漂わせている。匂いの元はクルーグカの身体からほのかに出ている煙が原因だった。確か鉄に電気を流すと熱を持ったはずだ、その影響で皮膚が焼けたんだろう。
効果があるならそこを攻める!
「雷よ 四つの刃となり敵を穿て “四刃雷槍”!」
魔力を消費して雷槍が四つ生み出される。
―――往け!
目標に向かって間をおかずに四つの槍は飛来する。直撃と同時に蜘蛛は大きくビクンッと身体を震わせて、地に落ちた。
今のうちに巣を完全に破壊して宙に戻られないようにしないとな。
「風よ 切り刻む刃となれ “風刃”!」
拳大ほどの球体が右掌に出来上がる。透き通っている翠色の球体。巣の収束点、すなわち中央目掛けて投げる。衝突する前に球体は爆発し、辺りに衝撃と風の刃を撒き散らす。
クルーグカに作られた巣は衝撃によって吹き飛び、残った部分は風の刃で散り散りとなった。
「ギィィイ・・・グァガアァア・・・・」
地に落ちたクルーグカはうめき声を上げる。先ほどよりも異臭を放ち、身体を何度も震わせているが立ち上がり体勢を整えた。
そこからはスピードでかく乱しながら魔法で責め立てる。だが、相手も馬鹿ではない。スキルと自分の作り出す糸を使い、樹の合間を移動し攻撃してくる。
くそッ!さっきまでの優勢が嘘みたいだな。
硬質化した糸の刃が迫り、横へ大きく跳び回避する。
――――バガァアァアン!!
後方で凄まじい音が響く。咄嗟に振り返り確認すると、五十センチ程もある樹の幹が抉れていた。抉られたことによって、重力に耐えきれずバキバキと音を立てながら倒れる。
「おいおいおい、マジかよ!?。たった一撃でこの威力・・・・、当たれば即死だぞ」
粘着性のある糸と硬質化している糸を使い分けて攻撃してくる。さすがに魔物上位となると話すことはできないが知能は高いか。次々と俺の動きに対処してくる。
このままじゃ、確実にジリ貧だ。雷の魔法を使っても決定打に欠ける。さて、どうしたものか‥‥。
敵の攻撃を避けながらも考えを巡らせていく。
そう言えば、デルマが言っていたな。魔力は譲渡できるが気力はできない。もし、譲渡する場合は繊細な操作が必要になる。ならば‥‥、試してみる価値はあるな。
今まで避けに徹してた俺はクルーグカに向かって一直線に走る。クルーグカは近づかせないように腕を振るうが、それを受け流し内へと潜り込む。力いっぱい踏み込み、身体を捻り、掌底を放つと同時に練り上げた気力をクルーグカの体内へ送り込む。
衝撃によって仰け反らされるクルーグカ。体内で気力が暴れまわり、内臓へと確実なダメージを与え、口から鮮血を撒き散らす。
思った通りだ。やっぱり、効果があったか・・・。
ここで一瞬だが気が抜けてしまった。俺を睨みつけ、腕を振るう。避けるのは無理だと判断し、腕で防御する。気力での強化も忘れてはいない。
衝撃と共に腕の肉が抉られる感触が伝わる。俺の身体はそのまま吹き飛び、後方にあった樹へと叩き付けられた。
「ぐふッ!」
肺から空気が漏れ、口の端からは一筋の血が流れているが、今は無視する。追撃を恐れて、すぐに体勢を立て直すが、クルーグカは地に伏し動かない死体となっていた。
「まさに『窮鼠猫を噛む』『イタチの最後っ屁』だな」
無意識に攻撃を受けた腕を触り、痛みが走る。
「ッ!」
眉を顰めながら傷口を確認する。
パックリと開かれた傷口。まるでこれは刃物に斬られてできたような傷だ。意識すると傷がかなり痛むが今は我慢だ。
死体のクルーグカの腕を見ると内側が鋭い刃になっていた。
「確か、こいつは『双鎌』っているスキルを持ってたな。すっかり忘れてこれにやられたか・・・。それよりもこの怪我をどうするか、だな」
今もなお、傷口から流れ出る血が地面に落ち、赤く染めている。このままだと出血多量で死ぬな。もうかなりの血を失った。
人は全血液量の20%を失うとショック状態になり、30%を失うと生命の危機、50%を失うと致死量となる。全血量はどのくらいかというと大体、体重の約1/13だと言われている。健康成人が約2Lの血液を失うと死ぬみたいだ。
まあ、この人の常識が魔物にも当てはまるかどうかは怪しいものだが・・・。それに地球には気力はあったとしても魔力はないからな。
今は魔力を体内にある血液と一緒に循環させ、臓器の虚血や低酸素症、急激な出血によるショックを防いでいる状態だ。だが、それもいつまで持つか分からない。
デルマが俺の魔力取得訓練時に言っていたが、この世界での死亡率が高いのは怪我らしい。魔物によって死ぬこともあるみたいだが・・・。
医療が発達してないのも一つの原因らしいが、魔法による治療ができないのが主な理由みたいだ。・・・語弊があるな。"魔法による治療ができない"でなく"魔法による治療がほぼ効果がない"だ。
なぜかと言うと魔法の行使は魔力を使用し、想像で構築されるが、人体に影響を与える魔法は明確なイメージをしていても魔力の消費が激しく、時間がかかりすぎるために治癒術士は少ない。幻覚魔法や精神に影響を与える魔法も例外ではない。アニメや漫画のように"ヒール"と唱えて簡単には回復できない。
なら、冒険者はどうやって怪我を治すかというと治癒術士が回復魔法を付与した薬を使っている。しかし、これは効果は高いが数も限られるために値段も高くほぼ上位冒険者が使用するのみとなっている。
そのために、明確な回復手段がない。
だか、方法が無いわけではない。別に傷を完治させなくていい、ただ、止血するために傷口を塞げばいいだけだ。この世界の住人はそれさえも難しいだろうが、俺には地球の知識が多少はある。それを利用すれば簡単にできる。
魔法の構築に使用する魔力消費やスピードはイメージ次第でどうとにでもなることは実験済みだ。
例えば、火の球そのものをイメージするよりも火が生まれる過程をイメージした方が魔力消費は少なく、スピードも早くなる。
その事は傷の治癒にも当てはまる。完治したイメージをするよりも治る過程をイメージした方が効率がいいということだ。
だが、実際に治癒はしたことがないからぶっつけ本番になる。失敗したら、それまでだが・・・。まあ、やらないよりはマシだ。
医療の専門知識はないから、正確は治り方は知らないが、簡単になら分かる。血液中に含まれる血小板が活性化し、血小板同士が結びついて、瘡蓋を作るんだったか?
眩暈がして、足元がふら付く。やばいな、血を失いすぎたか・・・?考えるのも億劫になってきた。
近くの樹の根元に座り込み、瞼を閉じる。深呼吸を数度して、傷口に手を翳し手当を始めた。しかし、残り少ない魔力を使用して余計に瞼は重くなり、眠気が襲う。何とか治療しながら意識を保っていたが、ついに意識が途切れた。
はっ、と目が覚める。空を見ると陽は大分傾き、夕刻となっていた。そういえば、腕の治療の途中で気を失ったんだ。腕の傷口は瘡蓋が出来上がって塞がっていた。
無意識のうちに治していたみたいだ。あのままだと確実に死んでいたなと思う。まあ、生きているから今は良しとしよう。
まだ、ふらつくが何とか立てる。
早く帰らないとルナが心配するな。ふと、そんなことが頭の中を過った。
ルナのことを考えると頬が緩むのを自分でも分かる。恋愛感情が全くないとは言えば嘘になるが相手は5歳児だ。妹としての家族愛の方が強い。実際は家族でも何でもないが・・・。まあ、ルナが成長して俺の妻となるなら、それはそれで嬉しい。可愛いから文句などあるはずがない。そんな未来が来たらいいなと思う。
ふらつく身体に鞭を入れながら来た道を戻る。
あと少しで里の結界に着く距離になった頃になって重要なことに気が付く。ランクが上がったかどうかの確認をしていなかった。ステータスを開きランク部分を見るが上がってはいない。他のステータスもまったく変化していなかったのだ。
あの魔物では条件を満たさなかったということか・・・?分らない。知り合いの魔物でもいればいいのだが、生憎とそんな人物?(魔物)はいない。今はできることをやっていくしかないな。
ステータスの確認が終わり、歩き出そうとしたところで後方に何かの気配を感じた。まだ、かなり距離が離れているが速い速度で迷わずに俺の方へと近づいてきている。この速度だと魔物か。そう判断し、立ち止まって襲撃に備える。
ゆったりとした時間が流れ、僅かだがついにその姿を現したが・・・。
「・・・。消えた・・・?」
いや、まだ気配は移動している。周囲を見渡すが姿は見当たらない。地面の中を移動していれば地響きがするが、今は無いからそれも除外だ。だとすれば・・・。木々の合間から漏れていた夕日の光が途切れ、影が差す。
「上か!?」
確認はせず、そのまま跳んで回避行動に移る。
――――ドォオオオォン!
音が辺りに響き渡り、地面が僅かに揺れる。さっきまで俺がいた場所には鋭い刃を2本突き立てた魔物が1匹いた。
その魔物―――クルーグカ。
俺が殺した同じ種族の魔物だった。だが、大きさが違う。2,3回り程小さい。それでもランクは同じ「上位」となっている。
なるほど。あの大きさだからこそ小回りが利くのか。それでも上空を移動するとなると目を見張るものがある。重力を無視した移動法。恐らくはスキルを駆使したのだろう。そうしないと説明がつかない。まあ、今はそんな考察よりも目の前の魔物だな。
目の前の魔物は鎌となった前足2本を引き抜き、俺は咄嗟に構える。魔力は少なく心もとない。それに血も多く失いすぎて万全な体調ではない長期戦闘になれば高い確率で死ぬはずだ。短期で始末しないと・・・。
だいたい、蜘蛛は肉食でメスはオスを捕食することがあるから、一緒に過ごすことは普通無い。それが一般に知られていることだが、捕食することなく一緒にいる蜘蛛種も地球には存在しているみたいだ。まあ、その知識がこの世界で役に立つかは分からないが、知っていて損はないはずだ。・・・たぶん。
先に動いたのはクルーグカだった。糸を射出する。俺の方ではなく、樹の方だ。しまった、先に行動を移させた。まあ、考え事をしていた俺に原因があるんだが。
伸縮性のある糸なのだろう、糸が縮み自身を張り付いた先の樹へと移動させ、幹へと張り付いた。そこからは同じ要領で別の樹へと移動し、また別の樹へと移っていく。まさに、周囲を利用した平面の移動ではなく、立体的な移動。かなりの速さで近づき前足を振るって攻撃を仕掛けてくる。攻撃を仕掛けた後はその場から離脱する。攻撃、離脱、攻撃、離脱を繰り返し、まさにヒットアンドアウェイだ。
何とか回避できているが、このままだといつまで持つか分らないな。魔法での牽制もできない。気力を使って攻撃しようにも動きが速すぎて懐に潜り込めない。この状況はまさに絶体絶命だな。
チラリと空を見る。茜色に染まった空、沈む太陽。
そうか。その手があったな。
対処法が閃くと同時に攻撃を躱し、背を向けて走り出す。その背中を追うクルーグカ。
「そうだ。そのまま追って来い、蜘蛛野郎!」
話すことはできないが、中途半端な知識があるから理解ができる。挑発を受けたクルーグカは敵対心を剥き出しにして俺を追ってくる。
よし!今のところは計画通りだな。
鎌での攻撃を躱し、弾き何とかやり過ごしていく。それから数分は走っただろうか。
ここでいいだろ。
後ろを振り返り、クルーグカがいるのを確認しその場で跳躍する。そこで俺に攻撃を与えるために同じく跳躍したクルーグカだが、太陽の眩しさでその動きが鈍る。
――――かかった!
俺は太陽の位置を確認しながら移動していた。
これで一瞬だが動きを止めることができた。今のうちだな。
「我に仇名す者を拘束せよ "樹花束縛"」
樹や草花に干渉し、クルーグカを拘束する。拘束されたことで動くことができずに重力に引かれて地面へと落下する。
俺も地面に降り、クルーグカへの懐へと潜り込む。
「これでもくらいやがれ!」
最初のクルーグカを仕留めた時と同様だ。踏み込むと同時に身体を捩じり力を足から腰、腕、掌へと伝えて掌底を放ち気力も送り込む。一回では終わらない。さらに踏み込み逆に身体を捩じってもう一度放つ。二回分の気力が体内で暴れまわり、内臓へとダメージを与えたことで口から鮮血を撒き散らす。痙攣を起こし、そのまま動かなくなった。
「……やっと、終わった」
強者との連戦で怪我と魔力、気力の消費で気怠さを覚え、その場に座り込む。
「疲れた~!」
その場で寝転がる。やっと、戦闘が終わったのだ。それくらい許して欲しい。
『条件未成立によりランクアップできません。余分な経験値はランクアップ時に加算されます』
やっぱりか。気落ちはあるが予想していたため、そこまでではない。別の条件がなのか。休みながらも考えを廻らせるが分からない。
「まあ、仕方ない。敵が弱かったからと仮定して他の魔物を狩るか」
休憩を終わらせ、里に戻るために森を歩く。
しばらく歩くと僅かな酩酊感を覚え、景色が変わる。
里の入り口にはルナが立っていた。
「おかえりなさい!」
ルナの元気な声で出迎えられる。
「ただいま」




