8話
ではでは。
目が覚める。目の前にあったのは・・・。
「知っている天井だ」
それもそのはずだ。二回目なのだから・・・。二度寝しようにもすぐ傍にはデルマが立っていた。
「おはよう、ゴブリン。昨日に引き続きまたも儂の布団を独占したな」
穏やかな口調だ。しかし、目は笑っていなかった。このままでは身に禍いが降りかかりそうなので早々に布団から這い出る。
「すまん」
素直に頭を下げる。これしか方法が思いつかない。
「別に構わんさ。ああなることは予想できていた。儂もそうだったからな」
「・・・そうなのか?」
「普通は魔力を最初に取得する。しかし、希に気力を最初に取得する者がいる。そういう奴は大抵がああなる。それは何故か。今まで気力操作を慣れすぎてしまったせいだ。そのせいで気力を操作してしまい魔力の操作が厳かになる。その二つの境界が曖昧になり混ざってしまい気絶する」
「そういうことか。なら、気力を取得していないものが魔力を取得するのは結構簡単ということか」
「そうだ。初めて魔力を操作するからそこに曖昧などない。ただ一つを感知して操作すればいいだけのこと」
「なら、魔力を取得している者が気力を取得するとなると今回のようになるのか?」
「いや、ならない。気力は筋肉に内包されているから感知するのに数十年とかかってしまう。これは筋肉を使用することで長い時間をかけて徐々に感知できるようになっていくんだ。だから、今回のようにならない。それに魔力は誰でも質は同じだから、他人と受け渡しができるが気力は違う。これは一人一人違うからおいそれと他人から渡してもらえない」
「そうか。良いことばかりではないんだな」
「まあ、相手の質に合わせることで気力も渡せると思うが、かなり繊細な操作が必要になると思うぞ」
「それは良いことを聞いたな」
これは覚えておこう。何かに利用できかもしれない。
「それはそうとどうする。続けるか?」
「愚問だ。もちろん続けるさ」
「いいだろう」
こんなとこで躓いていられるか。俺は最強になるんだからな。
三日後
魔力が送られ気絶するまでの時間・・・三十秒
さらに三日後
魔力が送られ気絶するまでの時間・・・十分
「まだ、魔力は取得できないのか・・・」
気絶から目覚めた俺の第一声だった。
「簡単には取得できないぞ。出来たら苦労はしない」
俺の呟きに答えたのはデルマだ。
「確かにそうだがな・・・」
「目安はある。だいたい二時間程だ。だが、一時間過ぎた辺りから急に延びなくなるぞ」
さらに三日経った。
魔力が送られ気絶するまでの時間・・・一時間十分
デルマの宣言通りとなった。一時間超えたのはデルマと話した翌日だった。
だけども、この2日間は時間が延びなくなった。今まで、気絶するまで操作していたが、気絶する前に魔力と気力の操作・感知ができなくなったのだ。
デルマの話によると、どうも気絶するのに慣れすぎたために身体が危険を察知しその前に遮断するようになったということだった。
アドバイスを頼んだが慣れしかないみたいだ。・・・最強までの道のりは長い。
さらに時間が経つ。
『スキル「魔力」を取得しました。「魔力」取得により「魔闘術」が使用可能になりました』
この声を聞いたのは七日後の事だった。
俺は喜びのあまり拳を握りしめる。
「お!その様子だと取得できたか」
「・・・ああ、やっとだ」
「上出来だ。儂は1カ月かかったから、十分早い方だ。さて、今日はもう休め。明日から魔法を教える」
「そうだな、頼む」
その一言だけ伝え、自分用に用意された布団にもぐり込む。
やっぱり、布団は良いものだ。その日は久しぶりに熟睡できたのだった。
翌日。
朝食を食べ終えた俺とデルマは里から離れた場所に来ていた。空地の様に広々とし、近くには小川が流れている。
俺とデルマは向かい合って早速魔法の練習を始めるのだった。
「前も言ったが魔法はイメージだ。イメージ次第でその魔法の規模、威力が決まる。そして、それに応じて魔力の消費も増大する」
「ああ、分かっている」
「魔力を手に集めるように操作してみろ」
俺はデルマの言ったようにスキル「魔力」を使い、手に集めように操作する。
「そのままの状態で維持しつつイメージしろ。イメージは水の塊だ」
イメージしていく。大気中にある水蒸気が水となりそれが掌に集まるイメージ。そして実際にイメージした通りにそれが魔力を消費することで現実でも起きていた。一分ほど経つと掌に集めていた魔力がなくなる。それと同時に閉じていた目を開けると手には直径十五センチ程の水の塊が浮いていた。
「上出来だな。・・・まさか一発で出来るとは思わなかった。イメージが強いんだな」
「まあな」
デルマが褒めるということは通常一回目では出来ないようだ。確かに空気中に水蒸気があるなどと知っている人間はこの世界にいないだろう。
「今度は氷の槍だ」
また目を閉じてイメージしていく。掌に集まる水の塊、それから変化して氷の槍。
目を開けて確認すると水の塊の表面をわずかに凍らせているだけだった。
「今度はさすがに無理だったか」
デルマがにっと笑い、嬉しそうな顔をする。
どうやら俺が失敗して嬉しいようだ。その顔を見てると腹が立つ。鼻っ柱に拳を叩き込みたいが今は我慢だ。
「言葉にするとイメージが固まるぞ」
俺は顔を顰める。まさかここで呪文という名の厨二を言葉にせろというのか・・・・。
はあぁぁぁ、大きなため息を一つ。仕方ない、これも必要なことだ。
目を閉じてイメージしていく。
「我が手に集まりし水よ 氷の刃となり敵を穿て “氷槍”!」
目を開けると掌には透き通った一メートル程の氷の槍が浮かんでいた。
「ほう!まさか、もう魔法が発動できるようになるとは・・・」
「これは綺麗だな」
「だが、魔法発動時に毎回目を閉じていては反撃をもらうぞ。それに戦っている時でも瞬時に発動できなければ意味がない」
「それは確かにな。それはなれしかないか・・・」
「そうだな。今回で魔法発動の感覚が掴めただろう。今日は軽めに魔法を組み込んだ組手をやろうか」
「だな。成長するには実戦が一番だ」
今日は日が沈むまで気力を一切使わず、魔力のみを使い組手をした。
デルマの話だと体術はもうかなりの練度らしい。不思議な話だ、体術は生まれてから使っていた思うが・・・。前世で使っていたのだろうか。まあ、俺の不完全な記憶では定かじゃない。
デルマの放った拳を受け流し、俺は反撃の蹴りを放つ。デルマは俺の蹴りを掴むと無造作に投げ、追撃してくる。俺は両腕を交差して防御姿勢を取り、そこにデルマの蹴りが突き刺さる。身体が後方に吹き飛ばされるが、地面に叩きつけられることはなくそのまま転がるように勢いを殺し立ち上る。左手には気力、右手には雷属性に変化させた魔力を纏い、デルマに向かって走る。左拳を放つ。デルマの放った拳とぶつかり合い衝撃波を起こす。その衝撃波でお互いの距離が開く。それと同時に魔法を発動する。
「一条の光となり敵を穿て “雷槍”」
雷槍は一条の光となりがデルマに向かって飛来する。しかし、腕を一振りしただけで雷槍を打ち消す。だけど俺は動揺しない、あれはいつも同じだ。
お互いに走り拳の連続。受け流し、避ける。どの攻撃も決定打にならない。俺はその場で屈み足元に蹴りを放つが、跳んで避けて踵落としをしてくる。脚を受け止めて掴み直し地面に叩きつける。一瞬硬直したデルマの身体。そのうちに心臓部分に爪を押し当てる。
これで勝負ありだ。
あの組手をした日から数日は経っていおり、あれ以来俺とデルマは毎日実戦組手をしている。俺たちが手合せしている間にも里の復興作業は続き、いまではある程度終わっていた。魔法があるから結構スムーズに作業が進んだのも要因の一つだ。かくいう俺もデルマの組手が終わった後は里の復興作業を手伝っていた。
「大分、様になってきたな。勝率も五分五分だ。この短期間でここまで強くなるとは思いもしなかったぞ」
「俺は強さを求めるのに貪欲だからな。どこまでも強くなるさ」
「確かにお前は前よりも強くはなったがそれでも最強までは程遠いぞ」
「そんなことは分っている。・・・早くランクを上げたいんだが、条件が分からん」
「儂たちの様にスキルが条件かもしれんしな。だが、儂は魔物でもないしそれは何とも言えんぞ」
「そうだな。もしかすると、上位存在を殺すことかもしれないしな」
「上位存在、とな。それは強い奴ということならこの里を北に行くと強い魔物はゴロゴロいるぞ」
「なら今度そいつらを殺しに行こうか」
ステータス
名前:
種族:小鬼変異種
階級:魔物「上位」
成長:100
※条件未成立によりランクアップできません。余分な経験値はランクアップ時に加算されます
技術:「眼」 (壱眼・弐眼) 「双天爪牙」「覇気」「気力」「魔力」(new)
条件未成立。これのおかげで俺はランクアップできないでいた。条件が何なのか知る必要がある。それを満たさないことにはいつまでもランクアップできない。特定のスキルを取得することなのか、魔物を殺した数なのか、強い魔物や人間を殺すことなのか、それとも女と一夜ともにすることなのか、子供つくることなのか、それは分らない。まずは、強い魔物を端から殺していく、これから始める。・・・子供つくるとしたら、誰とつくればいいのだろうか・・・・?
そんなことを考えているとタオルと水筒を持ったルナが近づいてきた。最近のルナは俺とデルマの組手を見学しており、終わるといつも今回の様にタオルと水筒を持ってくる。他のエルフの子供と遊ば良いのに俺は思うのにいつも後ろを付いてくるのだ。もしかして、俺に気でもあるのだろうか・・・。だけど俺は魔物でルナはエルフだ。確かに俺がルナを助けはしたがただあれだけのことで好きになることはないと思う。
額から伸びる二本の角。産毛すらないつるつるの頭。赤い瞳に鋭い目付き。口は大きさ裂け、そこから覗く小さい二本の牙。スレンダーとは言えない少し膨らんだお腹。極め付けは青色の身体。
ルナはこんな俺のどこを好きになるというのだろう。まあそんなことはどうでもいいか。今は目の前のルナだな。
俺が黙っていたのが不思議だったのだろう。ルナはこちら見て首を傾げていた。俺はそんなルナの頭を優しく撫でると嬉しそうに笑う。そんな顔を見ているとこちらまで心が和やかになる。
手渡されたタオルで汗を拭き、水筒の中に入った水で喉を潤す。こちらを見ていたデルマは儂には・・・、と呟いていたが無視することにする。
ルナに一言礼を言ってタオルと空になった水筒を渡し、また撫でる。タオルと水筒を大事そうに抱えたルナは家に戻っていく。その背を見送った俺は再度デルマと組手を始める。
俺は布団の中で考えていた。どうすれば条件を満たせるか、だけどいくら考えても分からない。結局、最後はそこに辿り着いてしまう。知識がないから当たり前だ。知っている魔物と会えばいいのだろうがそれもさすがに難しい。行き当たりばったりで行くしかないと思う。今は可能性のあることを一つずつ熟していく。・・・これしか方法がない。
次第に意識は薄れ、沈んでいく。
翌日。
朝食を食べた俺はデルマに一言入れ、北の地に行くことにした。昨日、考えたことを早速今日から実践する。ルナにも一言伝えている。伝えに行ったときに止められるかと思ったがそうはならず、心配そうな顔をしてがんばって!と言われた。ここで頑張らなきゃ男が廃る!と言うわけではないがその一言で元気付けられたのは確かだ。
里から出るときにデルマから人型の木彫りを渡された。これはルナが持っていた木彫りと同じものだ。話によるとこの木彫りは中央にある大樹から削り作ったものらしい。
大樹は「千樹」と呼ばれている。数千年生きる続ける樹。長い時を生きる樹自体に膨大な魔力を宿し、これから削り取ったもの言わば分身と共鳴する。そのため、千樹から削り取ったものを身に着けていると共鳴して道を教えられこの地に辿り着ける。
そもそもエルフの里は千樹が生み出す結界の中に存在する。森との親和が強いエルフだからこそ何も持たずこの地に辿り着き、里を作ることができる。しかし、今回の魔物の襲来のようにごく稀に結界の中に侵入する者もいる。
この千樹も一ヶ所だけでなく複数存在する。里も治める長老は数十年に一度開かれる会議に参加し、里の現況を報告する。膨大な魔力を持っているとはいえ千樹も生き物だから寿命はもちろんある。そのため会議を行い、寿命が近い千樹の結界から別の新しい場所か他の里に移動するということだ。ではどうしたら寿命を知ることができるのかというと千樹の根元には空洞があり、そこで数日過ごすことで知ることができる。この役目も長老が行うということだ。
この知識は全部デルマの受け売り。まあ、俺には関係のないことだが知っていて損はない・・・と思いたい。
俺は一人で里の北側から外に出る。文字通り、結界の外だ。そこは最初にいた森ではなかった。森ではあるが視界は明るい。しかし、結界の中のように神秘性は感じられない。普通の森だ。
奥へと進んで行くと雑魚の魔物があちらこちらを徘徊しており、俺を普通の魔物と勘違いして襲ってくるが返り討ちにする。今の俺の実力では雑魚が何匹いようと苦戦はしないはずだ。余程の強力な魔物でないと俺を殺すことはできないだろう。
さらに森の奥へと足を進めると大石がいくつも乱立する区画に出る。そこには岩や樹の間を糸が張り巡らされており、巣が存在した。その巣の中央にこれ作った魔物がいた。
ステータス
名前:
種族:鉄擊蜘蛛
階級:魔物「上位」
技術:鉄化 操糸 双鎌
こいつは強いと一目見て分かる。何よりも大きな身体は武器になる。先日の魔物の襲来で戦った蜘蛛とは違い、こいつの大きさは四メートルはありそうだ。そして、種族に鉄が含まれているように鈍色の体色をしていた。
今からこいつと戦う。強力な魔物だが勝つしかない。
次回、クモさんとのバトルです。




