1話
ここはどこだ。
暗い。何も見えない。
手を伸ばしても何もつかめない。
五感すべてがなくなってしまっている。目や鼻、耳、口、腕、足・・・すべてがないのかもしれない。
・・・・
・・・
・・
どれくらい時間が経っただろうか。
数分だろうか。いや、数時間。いやいや、数週間だろうか。はたまた、数年はもう経ってるかもしれない。
過ぎ去った時間を考えているうちに視界が次第に明るくなってくる。
やっとだ。
やっと、外に出られる。
視界が完全に明るくなり、五感すべてが機能する。目が慣れてくるとボロボロの家の中にいた。
そして、俺の傍には二十代後半の人間の女性が横たわっていた。目からは涙が、鼻からは鼻水が流れている。もう、目には生気はなく、言葉にならない呻き声をあげている。
俺はこの女の人から生まれたのかもしれない。咄嗟にそんなことを思ってしまった。
それは当然のことかもしれない。俺は女の人の傍にいて、女の股から大量に血がながれている。それに俺は生まれた赤子のように身体は小さく、身体には大量の血と粘液がついている。
体長は一メートルもない。八十センチメートルほどだろうか。
ふら付くがなんとか立てる。そして、見てしまった。自分の腕を・・・。人としてはありえいだろう色だ。・・・・・・青、だった。
嫌な予感がする。恐る恐る身体を確認してみる。三本指の手と足、股には男の象徴である息子があった。そして、腕だけでなく全身が青一色だった。
・・・は?・・・・う、そ・・・だろ
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだウソだうそだうそだぁぁぁぁぁぁ~~~ッ!!
ふらつく足でその場からなんとか去る。
ボロ家から出て見たものは魔物と呼ばれる小鬼だった。
数十匹はいるだろう。体格こそ違えど俺と同じ形状をしている。しかし、唯一違うのは目の前に見えるゴブリンは濃い緑色に対して俺は青色だった。
そこからは覚えていない。がむしゃらに走った。あてもなく、ただただ走る。
そんなときに偶然にも水辺をみつけた――いや、みつけてしまった。一塁の望みをかけて、覗き込む。
本当はわかっていた。わかっていたさ・・・俺はもう人間ではないことくらい。でも、認めなくなった。人であることを捨てたくなったのかもしれない。
水面に映っていたのは目は吊り上り、血のような赤い眼。口は大きく裂け、小さい牙が二本。そして、額には可愛らしい小さい角が一本あった。
どうしてこうなったのだろう。俺が何かしただろうか。・・・記憶を頼りに前世を思い返してみる。
俺は熊本県の田舎に男として生まれて育った。小学校に入学し、そして中学校、高校と通う。高校卒業後は会社に就職した。そして・・・・。
そこでプツリと記憶が途切れていた。
記憶はある。確かにあるが・・・名前がわからない。親も、友達も、そして自分の名前さえもわからない。
俺はいったい誰なんだろうか。なんでここにいるのだろうか。なんで魔物なんかに転生しているのだろうか。なんでなんでなんでなんでなんで・・・・・・。
次々と疑問が浮かんでは消えていく。
あはははははははは
「ギガギャギャギャギャギャギャギャギャ!」
あああああああああああ
「ギャーーーーーーーーーッ!!」
暴れる。手当たり次第に暴れる。地面を殴り、蹴る。近くにあった木を蹴り、殴る。
・・・・
・・・
・・
どれくらい経っただろう。一日は経ってるだろうか。森の中は日が当たらず薄暗い。
はぁはぁはぁはぁ
「ギャアギャアギャアギャア」
辺りの地面は抉れ、木々は倒れている。
なんでここいるのかわからない。ここにいるのは誰かの気まぐれでいるのかもしれない。なら、それでもいい。ゴブリンとして生まれたのならゴブリンとして生きよう。人でないのなら人を捨てよう。魔王が存在するのならその魔王になるのもいい。そして、いつかこの地上を支配し・・・・・・天下最強となる。特に俺は強くなるかもしれない。他のゴブリンと違い身体は青色している。たぶん、変異種というやつだろう。
やはり、魔王になるには強くなるしかないのか?
魔王という存在がそもそもいるのか不安だが生き方は決まった。
俺は魔王となり天下最強となる、そう決意した。
周りを確認する。俺はどうやら森の中にいるようだ。さっきまで困惑していたからそんなことにも気付かなかった。
でもまあ、確かに街の中にゴブリンがいるわけがない。
強くなるにはどうすればいいか。まずは、そうだな。同じゴブリンを殺して力を付けるとしよう。
行動目標が決まればあとは簡単だ。俺がさきほどまでいたゴブリンを殺そうか。
歩き出すがすぐに足は止まる。
そういえば、俺はここがどこなのか。あのゴブリンの村はどこにあるのかわからない。
あーーー、しまった。ここがどこなのかわからん。
最初から躓いてしまった。
どうするか。適当に歩いてあそこに辿り着けるか?
う~んう~ん、呻りながら適当に歩いていると何か聞こえる。
ん?・・・今、何か聞こえなかったか。
近くあった木の陰に隠れ、息を潜ませる。すると、音は徐々に大きくなる。
「おい、この辺りなんだろう?大きな音があったのは・・・」
「話によるとそうみたいだよ」
どうやら、人間の話し声だったらしい。
見つからないように密かに覗き見る。
全員で四人。男二人に女二人。男の方は身軽さを重視した防具をつけた一人ともう片方はガチガチに金属鎧で身に着けている。身軽い方はサバイバルナイフのようなものを二本手に持ち、金属鎧は大剣を手にしている。女の方は二人ともローブを身に着け、杖のようなものを手にしている。
どうも話を聞いてるとこの辺で大きな音があって調査に来たらしい。
・・・・俺が暴れたときの騒音が誰が聞いて報告したみたいだな。
それに・・・そうか。そうだよな。俺は今や魔物だ。魔物がいるならここはファンタジーな世界ということだ。なら、あの人間たちは冒険者というやつなんだろうか。
あいつらがどのくらい強いかがわからない今、迂闊に姿をみせるのはマズイ。姿を見られて、「はい、殺されました~」では生きる決意をしたばかりなのに意味がなさすぎる。さて、この場面をどうやって乗り切るか・・・。
そう考えているうちにも人間たちの声は近くなる。
「結構、森の中に入ってきたが何の痕跡もないぞ」
「そんなの私に聞かないでよ。はぁー、何で大きな音がしたからって、こんな森の調査なんて私たちがするハメになったんだろう・・・」
「仕方ないだろう。ギルドマスターからの指示なんだ。それに、ランクがDランク以上なのは俺たちだけだろう」
「それはそうだけど・・・」
「・・・何か不満があるのか」
「だってせっかくあなたと過ごしてたのに呼び出しがあったんだもの。不満ありまくりよ」
「この依頼が終わったら、ゆっくりと宿で過ごそうな」
「・・・うん。そうだね」
鎧男と髪の長いローブ女は俺の前でイチャラブな会話をしている。もう一人の男も髪の短い女と腕を組んで歩いている。あの四人はカップルでパーティーを組んでるらしい。なんとも、うらやま・・・けしからんことだ!
人間たちはもうすぐそこまで来ている。俺は見つからないようにさらに縮こまる。小さい身体が幸いだ。
「おい、ちょっと待て。・・・正確な位置はつかめないがこの近くに何かいるぞ」
「でかした。サラ、探知魔法を頼む」
サラと呼ばれた女は長い髪の方だ。
「わかった。光よ我を照らし道へ導け・・・“探知”」
サラに薄い光の膜ができる。次第に光は収束し、一本の木へと伸びていく。伸びた光と木が接触し、木全体をほのかに光らせる。
「そこか」
鎧男が手にしていた大剣を光っている木へと叩きつける。たった一撃で砕き、俺の頭上を通り過ぎる。
・・・は?・・・うそ、だろ。マジか!?たった、一撃だぞ・・・だけど、魔法があるなら身体強化みたいなものもあるのか?まあ、そんなこと推測するより、今この状況を打破する方法を考えないとな。正面からぶつかるしかないか。・・・・さて、覚悟を決めるか。
さあ、人間。殺し合いをしようか。
木の陰から出て人間たちに姿をさらす。
今、人間たちとの戦闘――いや、殺し合いが始まった。
どうでしたか。まだ、不慣れですがこれから続編書いていきます。




