07:舞踏会で彼女に噛み付いた
今日は文化祭当日だ。
講堂の隣にある建物の二階と三階の大広間がダンスフロアとして生徒達に解放されている。
天井には豪華なシャンデリアが煌めいている。
淡い紫色のドレスを着たリルは、花の妖精のように可愛らしい。
金色の長い髪はアップにして同じく紫色のリボンで留めている。
衣装担当の女性に、リルに前もって用意したこの衣装を着せるように依頼しておいたのだ。
「可愛いね……」
そう言うと、彼女は照れるように目をそらした。
ああっ、その仕草も……
彼女は俺の萌えポイントを突くのが上手だ。
ダンス中、リルは浮かない顔をしていた。
彼女が襲われたのは、つい先日。
その恐怖が抜けきっていないのかもしれない。
仲の良かったクラスメイトに襲われたのだ、疑心暗鬼にもなるだろう。
――でも大丈夫、それも今日で終わるからね?
「何を、考えてるの?」
リルの顔を覗き込んでみる。役得だ。
「ご、ごめんなさい。ダンス中に……」
そんな事気にしなくても良いんだよ?
今は気が気じゃないんだよね?
俺はちゃんと分かっているから。
「疲れたなら、少し休憩する?」
「……はい……」
彼女は、ダンスを中断する事を選んだ。
――すぐに楽にしてあげる。
リルを連れて、バルコニーへ出る。
夜風に当たり、リルは少し落ち着いたようだ。
今夜は、新月だ。
それも、俺の誕生月の。
――この日をずっと待っていた。
「足、痛くない?」
「はい、大丈夫です……それにしても、真っ暗ですね」
リルは少し怯えているようだ。
彼女なりに、何か感じ取っているのかもしれない。
「そうだね、だけど新月は好きだな」
「どうしてですか?なんだか、真っ暗で怖くないですか?」
今にも逃げ出しそうな雰囲気の彼女の退路を断った。
これで、彼女はフロアへ逃げ戻る事が出来ない。
もし逃げ出しても、彼女の後ろはバルコニーの冊――行き止まりだ。
「うーん、何でだろう、体の調子がいいんだ。俺の力が最高潮になるから……かな?」
「…………っ……!」
彼女が俺の瞳を見て怯えだした。
ああ、抑えが利かなかったか。
吸血鬼は獲物を目にすると本能的に目の色が変わる。
きっと今の俺の瞳は紅いのだろう。
「っ……かい……ちょう…………何で……っ?」
リルが、後ずさる。
「どうしたの?逃げないでよ」
徐々にリルを冊の方へ追いつめる。
「…………嫌っ……!」
リルは今にも泣き出しそうだ。
でもごめん、そんな顔しても、逃がしてあげないよ?
彼女の背中がバルコニーに当たった。行き止まりだ。
恐怖で目を見開くリルに優しく声をかけた。
一歩、また一歩、彼女に近づいていく。
「大丈夫、怖くないから……おいで?」
ついにリルを追いつめた。彼女の顔は恐怖で引きつってる。
彼女優しく抱き寄せると、首筋の所有印に口づけた。
「ごめんね? もう我慢できそうにないや……君があまりにも甘い香りを振りまくから、他の奴らを牽制するのも大変で」
彼女の首筋からあの、甘くて濃厚な香りが立ち上ってくる。
目眩がしそうだ。
「でも、待った甲斐があったなぁ」
――これで、完全に君を手に入れる事が出来る。
「ああ、リル……君って本当に…………美味しそうなんだから……」
リルの所有印がある場所に牙を立てた。
――甘い
今までに味わった何よりも上質の血液だった。
夢中で彼女の血を貪る。
リルの血は麻薬のようで、いつまでも口にしていたい。
俺は理性を総動員して吸血行為をやめると、ナイフで自分の皮膚を切りつけた。
ポタポタと赤い血が流れ落ちる。
この血が、これからのリルを支配する。
「ほら、リル。君の新しいご飯だよ?」
既にリルは気を失っていたので、俺は自らの血液を口に含んでリルに口付け、強制的に嚥下させた。
彼女ののどがコクリと動いたのを見届けると、俺は嬉しくなって笑いながら彼女を抱き上げた。
――これで、彼女は永遠に俺のもの……誰にも渡さない。
「衣装が血で汚れちゃったね、帰って着替えよう」
彼女を抱き上げたまま、ローザ寮へと向かう。
もうダンス会場なんかに用はないのだ。
途中、すれ違ったユンナが冷たい軽蔑の視線を投げ掛けて来たが、俺の知った事ではない。
こうして俺は、リルの隷属化に成功した。