03:授業に便乗して彼女を観察してみた
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夏休みも近くなったある日のこと、また事件が起こった。
その日、俺のクラスはマナーについての授業をしていた。
一年生の後輩と一緒の授業で、三年生の生徒が一年生の後輩に付いてマナーの指導を行うというものだ。
しかし、一年生の数の方が多いので、俺やユンナなどは二人の生徒の面倒を見ている。
勿論、俺の目は、少し離れた場所で授業を受けているリルに釘付けだった。
……エプロン姿も可愛いな。
彼女を担当しているユンナが羨ましくて仕方が無い。
「ふふ、二人とも優秀だから楽でいいわ」
リルは頬を染めてユンナを尊敬の目で見つめている。完全に騙されている! そいつは変態だから離れなさい。
その時、リルの隣のテーブルで授業を受けていた女生徒が倒れた。倒れたのは確か、ナノ=パスティックという女生徒で、リルとも仲がいい女子だ。
リルの交友関係は全て把握している。
「……やらかした様だね……」
授業が中断され、思わず舌打ちしそうになる。
せっかく堂々とリルを観察できる機会なのに……。
「どうしたの? 大丈夫?」
彼女の担当の三年生が慌てて駆け寄る。ワザとらしい、お前がやったのだろうが。
近くにいた教師がナノに声をかける。しかし、もう手遅れだ。
「パスティックさん、大丈夫ですか? 聞こえますか?」
ナノがビクッと動いた。突如彼女の目がカッと見開く。
手足をばたつかせ、ナノは叫び声を上げた。吸血鬼により吸血された人間に起こる、体の拒絶反応だ。
隷属以外の人間は吸血鬼に噛み付かれると、拒絶反応を起こして死んでしまう。例外は無い。
さっさと連れて行きなよ。
倒れた女生徒の首から血が流れているのが丸見えなんだよ。吸血鬼や隷属以外の人間にばれたらどうするつもりなんだ。
「ナノ! どうしたの、ナノ?!」
可哀想に、友達思いのリルが動揺している。
「早く、医務室へ!」
見かねて俺が指示を出すと、三年生の男共が用意した担架にナノを乗せて担ぎ上げた。
「リルちゃん、大丈夫よ。ナノちゃんには私が付き添うわ……」
女子には優しいユンナが動揺したリルに優しく声をかけ、ドサクサにまぎれて顔を覗き込んだ。その後、俺の方を向いてドヤ顔する事も忘れない。
「……はい……宜しくお願いします……」
騙されているリルに優しい笑みを向け、ユンナは担架を運ぶ生徒と共に医務室へと向かった。倒れた女生徒を処分するためだ……一度噛まれてしまった人間は、隷属になる以外、助かる道がないのだ。
「さて、俺は後片付けをしないとね……」
ナノの指導をしていた三年生の女生徒が彼女に噛み付いたのは明らかだ。
よりによって、こんな大勢がいる場所で……。
彼女を処分して、ナノの関係者の記憶を操作させて、事情を知らない生徒達に説明して……。ナノの家族や知り合いの記憶も操作して……。
これから指示しなければならない諸々を思い浮かべ、俺はうんざりした。
余計な仕事を増やしやがって。