例え話。
ある満月の夜のこと。
少年は血の色が嫌いだった。
血の色を見て叫びにもならない声を聴いた気がしたが
同時にそれを忘れた。
しかし今彼の両手は血で染まっている。
彼のいる血まみれの丘の上の家畜舎の中には生き物がいない。
その家畜舎の中には、家畜舎というのに家畜はおらず、女たちの死骸で一杯である。
彼は鼻が利かず、血のにおいで充満していてもそのことをなんとも思わなかった。
その時に彼の目が光り、
彼の黒色の目の色が変わった。
右目が緑。左目が青色。
血の色が彼を変えた。
彼は妙な飢餓感に襲われた。
彼は湖の水を欲した。
このどこかに必ず湖がある。
彼は丘を降りて湖があるはずの森の中を走り回った。
飢餓感が彼を狼に変え、森の中を縦横無尽に走り回らせた。
豊かな水をたたえた湖を見た瞬間彼は安心感からか人間の姿に戻った。
彼は手で湖の水を救い、それを飲む。
満足したころのこと、
湖が次第に赤く赤く染まっていくのに彼は気が付いた。
湖が血の色で染まっていくのである。
それと同時に、彼の目の色はもとの黒色へと戻っていく。
湖を染めていく赤はさっきの家畜舎にいた娘たちの血であった。
気が付くと、彼は飢餓感を失っていた。
彼は気がついた。
湖の上、森の遠くの夜空へとキジが飛んでいくのを。
澄んだ三日月の夜のことだった。