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十二の記憶  作者: 緋絽
紅の勾玉
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紅霞が照らす

緋絽です!三人称は難しいですね!

岳は無言で林の中を歩いていた。いつもの彼にしては急ぎすぎなほど、まったく休憩をとらずに先を急いでいる。

朱凰山に行く途中には、すでに通り過ぎた森と今通っている竹林、そして最後に草が腰の高さまで生い茂った草原がある。そのどれもに人が通れる道などなく、あるとしたら獣道ぐらいである。

繰り返す。岳は無言で林の中を歩いていた。

「岳」

―――気持ちが悪い。

その理由は少しでも早く朱凰山に辿り着き、彼らに干支の呪いを掛けてくれた有難い神に会うため。―――などという非常に前進的な理由ではない。むしろその反対であった。

「岳、待て」

―――キモい。

その岳の後ろにいる男の言葉にさらに岳は歩みを早くした。

岳の肩で玉玻と叉璃が身を寄せあっている。

「聞こえないのか岳。さっきから歩き通しだぞ、休憩しないと」

―――キモいキモいマジでキモいダメだ無理だキモい!

「おい岳、聞いてるのか…」

ついに岳は我慢出来なくなり勢いよく後ろの男―――進を振り返った。

「黙れ丑! 静かに歩けねーのか! それからなぁ」

突然怒鳴った岳に特に気にするでもなく進は黙ってその怒鳴りを受け入れる。

それにさえ気味悪さを感じた岳はビシリと指を進に突きつけた。

「人間の名で呼ぶな! 鳥肌が立つ!」

「だが、お前の名だろう」

首を傾げる進に岳は膝を地面につきたくなった。

いや、だが、負けない。何としても心の平穏を取り戻してみせる。

普段は皮肉げで憎たらしい性格の岳にも恐怖は存在する。そのうちの一つが干支の奴等に人間の名を呼ばれることである。これはここ最近になって新しくできた項目だ。

どちらかと言えば恐怖というよりは気持ち悪がっているのだが。

「俺達の間に名なんてあってないようなものだろう。お前に親しげに呼ばれると何だか裏がありそうなんだよ」

岳の様子にフンと進が笑みをみせた。

「なんと言われてもおれにお前の気持ちを慮ってやる義理はない」

「キモい」

「慣れればいい。お前もおれを人間の名で呼べばいいだろう」

その発言に岳は青筋をたて、しかし何度言っても変わらないだろう事を理解し舌打ちをして進から目を離した。

初代のの頃から性格が変わっていないのは岳だけだった。他の干支の奴等は前世の記憶をもとに大きく変わっている奴もいれば、それほどでもない奴もいるが、とにかく少しは変わっているのだ。

「……今度は何をやらされるのか」

進の言葉に岳は鼻で息を吐いた。

前代のの時はどこまでも神の社を追いかけることだった。最後の一匹になるまで走り続けなければ願いを叶えることはできない、まさに命を掛けた競争。―――まぁ結局、全員で滅んだのだが。

「さぁな。怖いなら大人しく引っ込んでればいいだろ」

挑発するような岳の言葉にムッと進は顔を険しくした。

そうそう、これだこれ。俺は奇妙なまでに親しげなのは逆に首を掻き切られそうで落ち着かない。それなら、初めから敵意剥き出しな方がまだ何を考えているのかわかって安心できるというものだ。

満足した岳はフンと鼻で笑った後に―――同じ気配に、目を鋭くした。進も気が付いたのか警戒するように眉を顰め、軽く手首を振った。

干支同士は、決して仲がいいわけではない。

寧ろ、気が遠くなるほど遥か昔から命の取り合いをし続けたせいで、相手に憎悪を抱いていたりする。前世で自分はあいつに殺された―――こんな風に。

だから、一発目に取り敢えず攻撃しておく必要があるのだ。岳が進に攻撃しなかったのは、たまたま先に冷やかそうとしたからであった。

進が手を振った瞬間に風が進行方向の竹林を薙ぎ倒した。

丑もと同様、能力を授けられていた。それは、押し潰す能力。

それを聞くだけなら何ともない能力だが、実際は酷いものである。過去の干支達の中にはこの能力によって完璧に押し潰されて死んだものは多いのである。

大気、物体、液体―――あらゆるものを使って押し潰すことができる。集中の度合いにもよるが、かなり広範囲を選択して押し潰すことも可能なのである。

そうして薙ぎ倒した竹林の奥にいる者に向かって岳は言葉を紡いだ。

縛布ばくふ

「ギャッ」

竹林の奥に進むと、体をプルプルと震わせた―――目を見張るほど美しい毛並みの白虎が、蹲っていた。

「何すんだよ、ねずみ、丑!」

その虎が岳達に向かって吠える。人間の言葉を。

虎の言葉に岳は肩を竦めた。

「こそこそ隠れてるからだろ」

「だからっていきなり攻撃すんじゃねー! オレ、チョーびびったんだぞ!」

虎が二匹を睨むと、玉玻と叉璃がちぃちぃと鳴いた。捕食されると思っている。

虎の怒りをものともせずに岳はしれっと返した。

「そんなことはどうでもいいから人間の姿に戻れ。それから、そこに隠れている虎を引きずり出せ」

岳の言葉に白虎は唇を尖らせ、ゆっくりと人間に戻っていった。丸かった背中が持ち上がりまっすぐになり、鋭い爪のあった前足が人間の手に変わる。

干支の呪いを受けた者達は皆、自分の獣の姿になることができる。もちろん、岳も進もである。ただ、一日になれる時間というものが決まっているためずっと獣の姿でいられるわけではないのだが。

後には猫のような目の青年が立っていた。

「虎丸、出てこい」

白虎―――干支の呪いを受けた一匹であるとらは不服そうに己の眷族を呼び戻した。

寅の後ろから音もなく黄色に黒の縞模様の虎が歩んできた。

こちらを警戒しているのか臨戦態勢を解いていない。

「お前が今代の寅か」

「そうだよ。……今代のと丑は仲いいんだな?」

ぽけらーんと花を飛ばしながら朗らかに寅が宣った。

「どこ見て言ってんだクソ寅。騙すぞ」

「えぇ!?」

何で!? 理不尽だ。非常に理不尽だとオレは思う!

寅は見たままの事を言っただけなのに。

「おれは道丑進。この隣の小さいやつは子都岳」

あっと岳が声をあげる。

クソ。今度は人間の名で呼ばれないように言わないでいようと思っていたのに。

「オレは虎嶋猛こじまたける。にしても相変わらずねずみは小さいんだな!」

「そのようだ」

鷹揚に頷く進の頭を岳は伸び上がって叩いた。

「黙れ丑。昔の悪夢見せるぞ」

岳の能力でならその程度のことは造作でもないのである。

岳の言葉に進は顔を顰め、寅はぶるりと体を震わせた。

しかし、すぐに殺しあおうとしない二匹を見て寅はパチクリと目を瞬かせた。

「ふーん?」

ニコニコしている寅を見て岳と進は怪訝そうな顔をした。

今までにニコニコするような面白い出来事はなかった。ということはこいつは特に何もないのに笑っていることになる。

岳は、こいつ、大丈夫かと半分本気で考えた。

「がっくんはさぁ」

「がっくん!?」

はぁ!?

丑の『岳』に続き今度は寅が『がっくん』ときた。

今度こそ本当に岳はこの集団を抜け出そうかと本気で思案した。

「取り消せクソ寅! その気味が悪い呼び方をやめろ!」

「クソ!? ちょ、それは酷くない!?」



燃え盛るような夕暮れの下。

こうして、三匹の干支が出会い、共に朱凰山を目指すことになったのである。



「オレのことはタケちゃんでいいぞ!」

「猛と呼ばせてもらう」

「断る。お前はクソ寅で十分だ」

「ヒデェ!」


次は秋雨さん!!

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