表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のマセル  作者: 中至
ユリスの苦悩
99/292

ソハカは、悲痛な思い出を語らせてしまったことに心が痛んだ。しかし、ユリスはそれを知って笑顔を作った。そして、あえて明るく口に出して言った。


「あなたが気にすることないのよ。私だって、今はもう、心の整理は付いていますから」


ソハカは、ユリスに慰められていると思うと余計に居たたまれなくなった。慰めてほしいのはユリスのほうだろう、と思った。何の気の利いた言葉もかけてやれない自分は本当に子供っぽい気がして惨めになった。


「ソハカさん。いいのよ。あなたがこうして私のために心を痛めてくれるというだけで、私とても嬉しいわ。ありがとう」


ソハカはもう一度ウリウスの指図を確認しようと思った。自分には荷が重すぎる……ユリスの過去をこれ以上詮索することを躊躇した。すがるようにウリウスの心を探ると、ウリウスもこちらの様子はずっと伺っていたようですぐに反応した。


「ウリウス様。あと、どうやって話したらいいんでしょうか? もう何だか気が重くなってしまって」

「何を言っておる? お前がそんなことでどうする。今聞いた話はもうだいたい分かっておる。肝心なのは、その子の心をどうやって探り当てたのかということだろう? それを聞かんか」

「あ、そうですよね。でもなあ」


ソハカは、そうは言ってもユリスの気が沈んでいるようなので気が引けた。しかし、もうこちらのやり取りはユリスにも伝わっているようだった。ユリスは自ら言った。


「つまらない話。ごめんなさい。そうよね。ソハカさん、それを聞きにここまで来てくれたんだもの」

「いえ、すいません。うまく説明できなくて」

「ふふ。もう悲しい顔するの、やめましょうね」


ユリスがなるべく明るく振る舞おうとしているのがソハカにもありありと分かった。ユリスは、歳は違うものの、まだ幼さを残すソハカに我が子の面影を見ていた。ソハカを見ていると自然に心が優しくなっていくような思いがする。


「でも、どうやってと言われても、私自身も分かっていたわけじゃないし。その後は何度試してもできなかったのよ?」

「そうですよね……なんだか、すいません」


いつもなら躊躇なくまっすぐ核心に迫る語り口が特徴のソハカである。それが、今はいつになく気持ちが揺れている。ソハカの心境をウリウスは面白げに眺めていた。その理由は分かっていた。ソハカはユリスに会って舞い上がっている。それはまだ仄かではあるが、ソハカにとってほとんど初めての恋情だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ