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ソハカは、悲痛な思い出を語らせてしまったことに心が痛んだ。しかし、ユリスはそれを知って笑顔を作った。そして、あえて明るく口に出して言った。
「あなたが気にすることないのよ。私だって、今はもう、心の整理は付いていますから」
ソハカは、ユリスに慰められていると思うと余計に居たたまれなくなった。慰めてほしいのはユリスのほうだろう、と思った。何の気の利いた言葉もかけてやれない自分は本当に子供っぽい気がして惨めになった。
「ソハカさん。いいのよ。あなたがこうして私のために心を痛めてくれるというだけで、私とても嬉しいわ。ありがとう」
ソハカはもう一度ウリウスの指図を確認しようと思った。自分には荷が重すぎる……ユリスの過去をこれ以上詮索することを躊躇した。すがるようにウリウスの心を探ると、ウリウスもこちらの様子はずっと伺っていたようですぐに反応した。
「ウリウス様。あと、どうやって話したらいいんでしょうか? もう何だか気が重くなってしまって」
「何を言っておる? お前がそんなことでどうする。今聞いた話はもうだいたい分かっておる。肝心なのは、その子の心をどうやって探り当てたのかということだろう? それを聞かんか」
「あ、そうですよね。でもなあ」
ソハカは、そうは言ってもユリスの気が沈んでいるようなので気が引けた。しかし、もうこちらのやり取りはユリスにも伝わっているようだった。ユリスは自ら言った。
「つまらない話。ごめんなさい。そうよね。ソハカさん、それを聞きにここまで来てくれたんだもの」
「いえ、すいません。うまく説明できなくて」
「ふふ。もう悲しい顔するの、やめましょうね」
ユリスがなるべく明るく振る舞おうとしているのがソハカにもありありと分かった。ユリスは、歳は違うものの、まだ幼さを残すソハカに我が子の面影を見ていた。ソハカを見ていると自然に心が優しくなっていくような思いがする。
「でも、どうやってと言われても、私自身も分かっていたわけじゃないし。その後は何度試してもできなかったのよ?」
「そうですよね……なんだか、すいません」
いつもなら躊躇なくまっすぐ核心に迫る語り口が特徴のソハカである。それが、今はいつになく気持ちが揺れている。ソハカの心境をウリウスは面白げに眺めていた。その理由は分かっていた。ソハカはユリスに会って舞い上がっている。それはまだ仄かではあるが、ソハカにとってほとんど初めての恋情だった。