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もっと若く見えるとソハカは思った。だがユリスが死んだのは27歳の時だという。ユリスの生きていた頃、クル教は大陸を中心に広く信仰されていて各地に会衆があった。もともと、ユリスの夫はそれら会衆の一つを治める長で、子を一人儲け、最初は幸せだった。
「でも、私は、クル教を捨てたのよ」
ユリスはあろうことか会衆を離れた。はっきりした教義を持たないクル教の信仰に疑問を持ち、改宗したのだ。
「なんて私は……私は……」
ユリスは泣いた。そこからはもう口に出して話し続けることができなくなった。ソハカは胸に逃げ出したくなるような鈍い痛みを感じながらも、じっとユリスの心を読んでいた。その様子を見て、ユリスは後の経緯を心に思い浮かべた。
「結局しばらくして夫は長の座を追われた。けれど夫は私を責めなかった。
でも、改宗した後、彼らの教義を深く知るに連れて私は愕然とした。私はそれから離れることにした。それを知った彼らは激怒したわ。
そして私が裏切れば、私だけでなく家族にも報復の手が伸びると脅した。身の危険を感じた。だから私は家を出た。自分のせいで夫や子供に危害が及ぶことに耐えられないと思ったからよ。
夫と息子が死んだのはその後よ。彼らが家に火を放って、二人は生きたまま焼かれた。もうそこに私がいないことは知っていたはずなのに。それを知って私は急いで家に戻ったけど、その時にはもう焼け跡になっていた。
『なんて、酷いこと……』
でも、私が本当に悲しかったのは、二人の亡骸がそのままそこに放置されているのを見た時。だって、私は何を言われても仕方ないけど、夫たちはずっと会衆に残っていたのよ。いくら何でも、だれも遺体さえ葬ってくれないなんて酷過ぎると思ったわ。私は、自分の罪を呪い、異教徒たちを呪い、そしてクルをも呪ったわ。
その夜遅くに会所に忍び込んだ。私は自分で、クル像の前で……
『生命を……絶ったんですね?』
そう。
だからここに目覚めた時、驚いたわ。ここにいることが間違いだと思ったのよ。なぜ自分が天にいるのか。それにもう天では死ぬことができないと知って、永遠の命さえ呪ったわ。結局、様子を聞いた引き合わせの人が私を半ば無理矢理にウリウス様のところに連れて行ったのよ」