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老人に呼ばれて家から出てきた女は、淡い紅色のいかにも女性らしい上下がつながった衣装を着け、自然で清潔感のある化粧をしていた。ソハカはそれがこの町の風情にはかえって不釣り合いな気がした。
「あの……私に何か」
「あ、ええ。実は少しお話を伺いたいと思って、ウリウス様に言われてここまで来たんですが」
「ウリウス様の? まあ、そうですか」
「ええ、良ければ少し立ち入ったことですが、お話しさせていただきたいんです」
「それじゃ、喜んで。お入りになりますか?」
「おじゃまします」
ユリスの家は入って一間しかない、いたって質素な作りのようだった。しかし、中はきれいに片付いていて、調度品もしゃれていて、壁に付けられた棒に服がたくさんかかっていた。
「何もありませんけど」
ユリスはあらかじめ容器に入った透明な飲み物をソハカに渡した。ソハカは容器の上の部分を回して開け、それを一口飲んだ。透明だが茶のような香りと味がする。ソハカは不思議に思って容器を顔に近付けて横からまじまじと見た。正面にユリスが座った。
「それで、話というのはですね」
「はい」
「ユリスさん。あなたが以前ウリウス様に接見したときに話していたことなんですけど」
「はい」
「あなたにお子さんがいて、そのお子さんは天にいないのに、その子の心が読めたという話です」
「はい」
「それは本当ですか?」
「……はい」
ユリスは素直に答えてくれるのだけれども、はい、としか言わないのでソハカはどういうふうに話したらいいのか、少し困ってしまった。ソハカはウリウスに頼ろうと考えて
「あの、ちょっと待ってください」
と話を中断すると、ウリウスの心を探った。ウリウスは待ちかねていたようだった。
「ユリスを見つけたらすぐ知らせんか!」
「だって、ウリウス様いちいち言わなくてもそんなこと読めるでしょ」
「バカかお前! こっちは分かっておっても、お前が儂の心を読まなければ指図ができんだろ」
ウリウスはなぜかまだ苛々しているようで、ソハカはその言い方に少しふてくされた。
「もういい。とにかく、ちゃんと必要なことを聞いておけ」
「どうやって話せばいいんだよ……」
「まったく、何でも率直に聞けばいいってもんではないわ、もっとこう、優しく、思いやりを持って、ゆっくり」