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なぜか周りにだれもいなくなった、ソハカは、少し離れた家の前で何か作業をしている老人を見つけて近付いた。
「あのう、ちょっとお尋ねしますが」
老人は、自分の腰くらいある古びた箪笥のようなものを作っているのか、直しているのか、しゃがみこんでしばらく作業を続けていた。老人の心を読んだ。ソハカの声は聞こえている。ソハカは老人が返事をしてくれるまで粘るつもりで黙ってずっとそばに立っていた。
「……何の用だ」
老人はソハカのほうを見るでもなく作業を続けているが、やっと口を聞いてくれた。
「あのう、ちょっとお尋ねしたいのですが」
「この町に何の用だ?」
「え、あの……人を、探していまして」
ソハカは引き受けの者でユリスという女性だと説明した。老人はそれを終始手を止めずに聞いていた。ソハカは事情を話したが、もう接ぐ言葉がなくなって黙ってしまった。老人はソハカに聞こえるほど大きな溜息を一度ついた。初めて手を止め、ソハカのほうを向いた。
「知の王の命で、その話を聞きに来たというのだな?」
おそらく同時に心を読まれている。ソハカは何か不気味な感じを受けたが、ゆっくりと頷いた。
「じゃ、案内しよう」
老人はゆっくりと歩き出した。ソハカは一瞬遅れて
「あ、ありがとうございます」
と老人に背中にお辞儀をすると、その後ろを黙ってついて行った。
老人はソハカをユリスの家の前まで案内した。ユリスの家は小さくて外観は質素で古びていた。また、ソハカは自分の考えすぎかとも思ったが、何となくその家だけが、他の家並みからぽつんと離れているように感じた。
「おい、ユリス」
老人がその小さな家の中に入って声をかけてくれた。
「人が訪ねて来たぞ」
老人は、女が気付いて出てくると何も言わず一人立ち去ってしまった。ソハカはもう一度その背中に
「ありがとうございました」
と声を掛けたが、老人は振り向きもせず戻って行った。