ユリスの苦悩 1
ソハカは街道まで出ると一気に馬機の速力を上げた。その女、ユリスという名の女は別の都市群に属する町に住む引き受けの者であった。居所はウリウスがその女の心を読み、他の知識と突き合わせることでほぼ特定できた。
ソハカはしばしばウリウスやリギルの心を確かめながら急いだ。様子が気になるというよりも、主にはリギルが自分の行動に不信感を持つ前に事を運ばなければならないと考えていたからだった。ウリウスはその場にリギルを連れていかなければそれほど心配はないと言っていたが……。
「リギルさん、突拍子もないことするからなあ」
ソハカはリギルの性向を身近に知っているだけに少し心配だった。
目当ての都市群に近付いたので、ソハカはウリウスの様子を探った。ウリウスはソハカの心をいつも気にしていたので、すぐに応答した。
「ウリウス様、ああ、ちょうど良かった」
「ちょうどじゃない。儂くらいになればお前さんの様子くらい常に把握できるわ」
「……ですよね。あの、ユリスさんがいるのは指弾の町の近くでしたよね。もう着くと思います」
「分かっておるわ、早くだれかに聞いて引き受けのユリスを探せ」
「ウリウス様、なんか機嫌悪いですね」
「儂はな、引き合わせの連中に会うのが嫌いだ。リギルのこともあるので仕方なく話を聞いたが、あいつらと話していると苛々する」
ソハカはウリウスらしからぬ感情が可笑しかった。
「何を笑っておる。ソハカお前」
「いえ、失礼しました。接見の時のあの御姿からは想像できないなあと……いや、感心しているんですよ。分かっています。感情は知力の源ですから。抑えればいいというものではない。ところでウリウス様まだ接見は再会しないのですか?」
「当分は休む。儂は別に人助けのためにやっているわけではないからな。本当に助けが必要ならクルに祈れば良いのだ」
「そりゃそうですね。じゃあなんで接見なんてしてるんですか?」
「そんな話は今どうでもいい。とにかくユリスを探せ」
ソハカは心の中で悪戯っぽく「はあーい」とおどけて見せた。
ソハカはそのまま指弾の町を通過して、その近郊にあるはずの集落を目指した。指弾の町は家がまばらで空地だらけの町だったので馬機のまま通行できた。おそらく時代的に古い人々が暮らしているように思えた。いくら便利で高度な技術を知っても、やはり自分たちが馴染んだ暮らし方を守ろうとする人々は少なくない。それはそれで、その人々にとっては幸せだろう。それが各都市群の特色にもなっているのだ。
でも、ここが地獄だなんて。ソハカはウリウスの説を不思議に思った。だってこの世界はいたって平和で安全、人々は不自由なく暮らしている。理不尽な不幸や迫害もないんだし、少なくとも現世よりましじゃないか。
ユリスがいるという集落は一見して古風で飾り気のないところだった。家は低く、人もあまり歩いていない。ソハカが馬機から降りるところを一人の住人が珍しそうに眺めていた。ソハカはちょうど良いと思って声をかけた。
「こんにちは。人を探しているんですけど、ここにユリスという……」
ソハカが言い終わらないうちに、住人はそそくさと家の中に隠れてしまった。見回すと何人か見ていた人もいたが、声を掛けようとするとなぜかみんな目を背けて避ける。ソハカは少し不安になったが、臆せず何人かに声を掛けた。しかし、だれも取り合ってくれなかった。




