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「おお、しばらくだったのう。ソハカ」
ウリウスは書斎のような小さな部屋にいて、身に纏っているのも接見の時のような立派なものではない。一見すると、とても同じ人物とは思えない好々爺の風情を醸し出していた。
「それで、私に何用ですか?」
「うん、リギルはどうしている?」
「リギルさんは、ずっとマセルさんを探して瞑想しています。どこかにマセルさんがいれば、心を捕らえることができるかもしれないと」
「そうか。だがそれはおそらく困難だな」
ウリウスは淡々と否定した。ソハカは、少しリギルに同情する気持ちもあったが、
「私もそう思います」
と同調した。
「別の場所があるはずじゃ。ここが地獄だとして、どこかに本当の天国が存在するはずだ。わしはそう見ておる。ソハカ。お前さん、リギルがなぜマセルに会いたがっているのか詳しく知っているか?」
ソハカは今までリギルから聞いたことと、それに伴ってリギルの心から知ったこととを一通り話して聞かせた。
「なるほど。まあだいたい儂の読んだところと一致しておるな。その話からすると、儂の推測ではそのマセルという友こそ天に復活しておる可能性が高い」
「なるほど」
ソハカは本当に理解しきった訳ではなかったが、一応肯定した。
「今までの調査や多くの聴取でも、むしろこちらに現われない者のほうに信仰上の理があるように感じられる例は少なくない。まあ今回のことを想定して調べたわけではないので確信を持って言うのは憚られるが、儂の実感としてはそうなる」
「しかし、もしそうなら、リギルさんがマセルさんに会える可能性はもうないということになるのでは?」
「そこでじゃ」
ウリウスは卓の上に広げてあった一冊の分厚い資料を膝の上に載せて言った。
「もうずっと前の話になるが、儂のところに相談に来た女がいてな。これはその時の記録だが」
ソハカはそれを覗き込んだが、知らない文字で書かれていた。
「その女は、自分が天に来たのは間違いだと儂に訴えた。それで、儂はとにかく女をなだめて返したんだが、その時に、おかしなことを言っていたのを思い出してな」
「……」
「女は、自分の子が天に来ているはずだと言ったんだ。一度だけ、その子と心が通じたと言ってな。しかし、そんなことはふつうあり得んだろう?」
ソハカは頷いた。あらためて考えるまでもなく、それはおかしい。一度知った者の心がまったく読めなくなることなどない。それ以前に、そもそも我が子が復活したら引き合わせの者は親がどんな状況であっても必ずそれを知らせるはずだ。それはその女の願望が肥大して現実と区別があいまいになっているだけだ。ソハカはそう考えた。
「まあ、だれでもそう思うだろう? しかし、もしそれが本当だとしたらだ」
ソハカは少し考えてはっと気付いた。
「異界にいる自分の子と話をした。その可能性があるということですね?」
「あるいはな。もちろん間違いかもしれんが、もしそれが真実ならリギルには大いに希望になるに違いないと思ってな」
ソハカの表情が俄かに明るくなった。リギルに早く伝えたいと考えて、しかしふと疑問に思ってソハカは尋ねた。
「ウリウス様。でもどうして私に?」