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接見の間を出た途端、リギルはソハカの肩に寄り掛かった。付き添っていた女に案内されて通路を抜けて殿堂の裏手の庭に出るとリギルは崩れるように地べたに座った。
リギルはぐったりしていた。それは無理からぬことだろうが、ソハカもまたウリウスの驚異的とも言うべき眼力と、底知れぬ精神の容量を目の当たりにした衝撃で言葉を失っていた。しかし、しばらくするとソハカのほうが先に正気を取り戻して、大きな息を一つ吐いた。
「……すごかったですね」
リギルはまだ黙っていた。
「やはり噂に違わぬ、正真正銘、知の王の名に相応しい方ですね」
「……」
「でもリギルさんも。リギルさんもすごかった。びっくりしましたよ」
「……」
「リギルさん?」
いつものリギルの表情ではない、とソハカは思った。疲労の色も見えるが、それよりも何か少し怖い感じがしていた。リギルは、ちらとソハカを見遣ると言った。
「なあソハカ、さっきの酸い食べ物まだ持っているか?」
「え? ああ……」
ソハカはそれを取り出すと一つをリギルに渡した。もう一つを自分の口に放り込んだ。
「うう、酸い」
リギルはそれを何度も噛みながら顔をしかめた。ソハカがじっと見つめていると、リギルはやっとソハカを見て笑った。
「さすが、ウリウスは確かに知の王というところだな。見事だ」
「本当ですね。リギルさん……リギルさんは、マセルさんを探すって言うけど、これからどうするつもりですか?」
「うん、まだ具体的にどうしたらいいのかは皆目見当もつかん。でも、時間はある。時間だけはいくらでもあるんだ。俺は絶対にもう一度マセルと会うぞ。ソハカ。この天では、人が本当に望んだことは必ず成就する」
「ウリウス様は、ここは天じゃないって言ってましたけどね」
「そうだな。でもいずれにせよ、俺は今信じた。イラの言う通りだったんだ。それに、そのためにこそ調整が必要なのだ」
ソハカは黙ってにこっと笑った。
「うまく説明できないけど、何だか妙に納得しますね。私もそんな気がしてきましたよ」
「ソハカ。もう一度あの宿舎に世話になって、しばらく留まろう」
「ええ。いいですけど、どうして?」
「接見が終わったときウリウスは確かに俺に話しかけた。心の中でな。また会おうと読めたが、お前は気が付かなかったか?」
「え? そうだったんですか? すいません、ぜんぜん気が付かなかったです。接見の後はもう、リギルさんの様子ばかり気にしていましたから」
「……そうか。心配かけてすまんな。でも、もう大丈夫だ」
二人は前に世話になったのと同じ宿舎へ戻り、事情を話してまた部屋を当てがってもらった。部屋で二人は接見の様子をできるだけ事細かに思い出しながら、そこで交わされた一つひとつの言葉をもう一度確かめた。そのうちに心地よい疲労が襲ってきて、どちらからともなく眠った。
ソハカが目を覚ましたとき、リギルはまだ熟睡しているようだった。ソハカはひとり部屋を抜け出して、もう一度ウリウスの殿堂に行ってみた。すると、殿堂の門が閉じたままになっていた。番札も配っていない。辺りには何人かの人が屯していたので、ソハカは様子を聞いてみた。
「ウリウス様は、これからしばらくの間接見を中止するということだ」
ソハカはそれがリギルと関係があるように思った。しかし、町に住んでいる人々に聞くと、ウリウスは何か特に課題や調べ事が生じた時にはしばしばこのように接見を中断するらしい。
ソハカはこのことを早く伝えようとリギルのところに戻った。
「リギルさん! ウリウス様、接見を中止したそうですよ」