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マセルはいつも真剣なのだ。手を抜くということを知らず、いつも今を必死に生きたのではないか? リギルはそう思った。だれに告げることもなく一人クル像を打ち会衆を救った。いや、そもそも子供の時分からマセルはいつもそうなのだ。決闘ごっこをしていたリギルたちが何度挑んでも全く歯が立たなかったのは、そのせいだったではないか。
「あ!」
リギルは今さら思い付いた。マセルがあの時、クル像を蹴った理由を。
あの時マセルは、リギルの言葉に傷付いたわけでも、自分の境遇を呪ったわけでもない。あれはリギルがあの時見せた弱さのせいだ。いや、リギルと言うよりも、すべての人に現われる半端さ、生半可、精神的な妥協の構えだ。
おそらく、マセル自身すら自覚しなかったのではないかと思う。しかし、リギルは今まさに一人確信した。怒りだ。おそらくマセル自身をも含んだ、人間ゆえの弱さに対する怒りだったのだ。それしか考えられない。
いつの間にか俯いて考え込んでいるリギルを、ウリウスはじっと待っていた。不意に顔を上げ、そしてリギルが覚悟したように言った。
「ウリウス。最後の質問だ」
「ほう……」
そうだ。私はこのためにここへ来たのだ。これが私の唯一の希望。リギルは、うめくように低く声を絞って、続けた。
「……どうしたら、もう一度マセルに会えるか」
ウリウスは微笑んだままに言った。
「そう……だが、それは分からん。分からんのだよ」
リギルは大きく息を吐いた。しかしそれは答えがないという絶望の溜息ではなかった。それは問うべき問いに辿りついたという安堵であった。
リギルは、ここで与えられた永遠の時間は、マセルを探すためにあるのだと決意した。
「望むなら、叶う」
イラの口癖を思い出して一人噛みしめるリギルを、ウリウスは嬉しそうに見ていた。




