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だが、次のウリウスの言葉は、リギルが想像したそれとはまったく異なっていた。
「儂の考えを先に言っておこう。もちろん、クルのご意思の通りに万事が運んでおるには違いない。しかし、儂の見立てでは、実はここは天国ではない」
「な!」
「そうだ。儂の考えでは、おそらくこっちが地獄なのだ」
驚いた。リギルの、ウリウスを見つめる瞳孔がさらに開いた。
「なんだと! ここが地獄だと?」
ウリウスが何かとんでもない暴論で自分を丸め込もうとしているのではないかというような混乱した考えが一度に浮かんでリギルは平静さを失った。
「では、天国はどこにあるのだ! ここに現れない者たちはどうなったのだ!」
「ふっ」
ウリウスは不意に笑った。
「お前さん。今のが、最後の質問でよいのかな?」
リギルは一瞬、しまった! と思った。いや、しかし、考えてみれば今のだって非常に重要な質問ではないか? リギルの中で、半ば肯定する気持ちと、いったん言ってしまったのだから今さら変更したくないという意地のような気持ちが入り混じった。リギルはこのまま押し通そうかと考えた。しかし、ウリウスはリギルの返答を待たずこう言った。
「ところでな、儂はお前さんに質問は3つだけだと条件を付けた。するとお前さんは何をどう質問するのが最善か必死で考えたな。まあ、それでも結果は失敗に終わったんだがな。はっはっは」
リギルは一瞬ぽかんとした。
「人間、不思議なものよ。際限なく可能だと思うと弛みから逃れられない。今、ここしかないとなれば必死になって最善の策を練ろうとするのだ。もちろん、それが裏目に出ることもあるがな。だが、弛みだけではそもそも辿りつけん」
ウリウスの言葉は自分を蔑んでいるようにも聞こえた。だが、もはやウリウスに対抗しようなどという気すら失せていた。
「いやいや、決してお前さんを責めているわけではない。だれしもそうだと言っておるだけだ。お前さん自身そう感じておるはずだ。お前さんが本当に気にしておるのは強欲や快楽というようなことではない。お前さんは要するに、ここに住んでおる者たちが皆、永遠という時間を与えられたことに甘えて必死さに欠けておるということを言いたいのだろう? それは、本当に信仰に生きているのとは違うと言いたいのだろう?」
リギルは自分の喉から胸の中へ何かが溶け落ちていくような気がした。
「必死さ……」
そうかも知れない。天に目覚めて以来ずっとあった違和感。このわだかまりの本質は確かにそれだ。クセルたちの顔が次々浮かんで消えた。弛緩した笑顔。きっとそうだ。しかし直後リギルの心に浮かんだのは、友の顔であった。マセル。
リギルはマセルの人生を思った。