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リギルは決意したようにはっきりと語りだした。
「まず1つ目に問う。私は、この天に住む人々の生き方が納得できない。ここで行われていることは本当に、クルのご意思に適うものなのか? これが本当にクルの望んだ天の有り様なのか?」
「一度に2つの質問は許さん!」
ウリウスがいきなり鋭く指摘した。リギルは驚いて仰け反りそうになったが、体を前のめりに構えてウリウスを睨んだ。
確かに一度に2つの質問をしている形とも言えるが、自分としては聞きたい内容を詳しく説明するために言い換えただけのつもりだった。しかし、ここでそれを主張しようとは思わなかった。それについて言い争っていることは不毛だと思ったからである。
「申し訳ないことだが、最初からやり直してよいか?」
それを聞くとウリウスは高笑いした。
「お前さん。今の質問で3つ目じゃ。はっはっは」
うっ、とついリギルは狼狽えた。これで接見の機会が終わってしまったのか? 理不尽な。だが主導権を持っているウリウスがそう見做せば、もう何を主張しようと無駄だ。しかし……これが知の王と崇められたウリウスの本性なら、むしろ期待する価値もない俗物ではないか。リギルは敵意を剥き出しにしてウリウスを睨んだ。
「はっはっはっ。いや、すまん……冗談じゃ。お前さん、そうやってすぐにむきになるところがある」
リギルはそれを指摘されたことで余計に腹立たしかった。
「もちろん、わざわざ言葉遊びのためにこうしてお前さんと話しているわけではない。しかし、お前さんがそう尖っていては落ち着いて話もできんじゃないか。少し力を抜いてはどうかな?」
ウリウスはゆったりと座ったままリギルを見つめている。それはいつの間にか最初の柔和な笑顔に戻っていた。リギルはウリウスの心を探った。しかし、その見たままと同じで、ウリウスには特に何の悪意も感じられない。リギルは何が何だか分からなくなった。
「さあ、今のは、ほんの練習だ。質問は3つに限っておるが、もう言葉尻など気にしなくてよい。何を聞くべきかゆっくり考えをまとめなさい」
リギルはウリウスから視線を逸らすまいと睨み続けていたが、内心では必死に落ち着こうとした。長い沈黙があった。接見の記録をとる者たちもリギルに配慮して筆を止め、その場に会すだれも、物音ひとつ立てなかった。
「許される質問は3つだったな?」
リギルは、そう言ってから咄嗟にまた質問してしまったと気付いて後悔した。しかし、ウリウスはそれにはまったく無頓着に逆にリギルに質問した。
「お前さんそもそも、どうして私のところへ来ようと思ったのだ?」
リギルは必死で冷静さを取り戻そうとした。そうだ。俺は何を力んでいるんだ? 俺は自分の迷いに決着を付けに来たのだ。落ち着け。落ち着くんだ。この機を得て、このまま帰っては悔いしか残らない。