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天国のマセル  作者: 中至
ウリウスの洞察
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ウリウスの洞察 1

リギルとソハカが入るとすぐに、背後の重厚な扉が閉ざされた。扉の両側に長くて白い衣をつけた若い女性たちがいて、その後列に棒を持った軽武装の男が並んでいた。奥の方には幅の広いひな壇があって、その中段の台座のようなところにも棒を持った男たちが左右に分かれて立っていた。それと別に何人か、これも白い衣を着た人が並んで座っていた。正面だけは上まで続く緩やかな階段があって、その一際高い所に長い髭を蓄えた老齢の男が立っていた。リギルとソハカは一目でそれがウリウスだと思った。


背後に並んでいた若い女性の一人が、リギルとソハカの前に進み出て手招きした。


「どうぞ、ウリウス様のお近くに」


女性に導かれて階段を上がり、二人はウリウスの近くまで行った。ウリウスの顔は皺が多かったが色艶は良い。近くで見ると、想像していたような威厳や風格よりもむしろ、御しやすい柔和さを感じさせた。


ウリウスは後ろにある豪奢な座に腰かけた。ウリウスの前には弧を描いた濃い茶色の長椅子があり、女性に促されてリギルとソハカはそこに腰かけた。ちょうど二人はウリウスと対面する形になった。


ソハカは高い天井を見上げ、その後周囲を見回してその作りに感心していた。自分たちが一番高い所にいるので、台座のようなところに座っている男たちは眼下に囲むように位置しており、そのもっと下に女たちが控えて立っている。


一方のリギルはもう周囲を眺める余裕すらなく、ただじっとウリウスを見つめていた。


「それでは、接見を始めます!」


横にいた女性がいきなり大声を出したので、リギルはびっくりした。ソハカは周りの様子をうかがっていたのでそれほど驚かなかったが、その宣言と同時にウリウスの表情から今まで感じた柔和さが消えたように見えて、咄嗟にウリウスの心を読もうとした。しかし、ウリウスの心には何も読めなかった。いや、読めないというより、一瞬ではその内容が多すぎて具体的にどれも読み取れないというような印象だった。ソハカは内心たじろいだ。今まで聞いた噂や資料の情報など凌駕するほどの圧倒的な力を感じたからである。ソハカも一気に緊張した。


もちろんリギルのほうはすでに極度の緊張に達していて、ウリウスの心を読むどころか半ば正気を失っているような状態だった。言葉が出てこない。今の今まで繰り返し頭の中で確かめていたのに、何を聞きたかったのかも吹き飛んでしまった。


互いにまだ何の言葉も発していないうちに、下の方から卓に筆を走らせる乾いた音がし始めた。下に座っている者たちが、何かを記録しているのが分かった。


ついにウリウスがなぜか怒るような口調で声を発した。


「早く質問したらどうだ」


ウリウスの一言のせいで、ソハカは接見の間全体が異様な緊張感に包まれたのを感じた。


ソハカは慌ててリギルの心を読んだ。リギルは完全に怖気づいているようだ。あらかじめ考えた質問も心の中で入り乱れている。ソハカがウリウスの顔を見ると、それは先ほどまでと打って変わって険しく睨み付けるようなものだった。ソハカにはその理由がまったく分からなかった。もしかすると、自分の中にあるウリウスに対する好奇心が否とされているのだろうか? それともリギルが試みようとしている問いが、それそのものが許し難いのだろうか? しかしそんなことで逆鱗に触れるとは……ソハカはウリウスの顔を見つめ続けることに耐えられなくなって目を背けた。しかし自分はまだいい。ソハカは横にいるリギルの顔を同情をもって盗み見ようと目だけを動かした。


しかし、リギルの表情はソハカが想像したものとまったく違った。ソハカは逆に驚いてもう一度リギルの心を見た。さっきまで完全に動揺していたはずだが? いつになく落ち着いている。それだけではない。リギルの心を今支配していたのは、強烈な対抗心。それはウリウスの威圧に屈しまいと底から燃え上ってくるような強烈な闘争の意志であった。


ソハカはもう盗み見るというより半ば呆気に取られて半身をリギルのほうに向けてその顔をまじまじと見た。無論ウリウスの持つ知識や論理性、思考を操る力、それらにリギルが対抗できるとは思えない。が、ソハカはこの時、リギルに備わっている何か、ウリウスのそれとは別の、尋常でない精神の力のようなものを感じた。もとから少しは感じていたことでもあったが、これほどまでとは……ソハカはこの時初めてリギルに宿るそれをはっきりと実感した。


「……」


これがリギルさんの精神……思わず呟きそうになったが、ソハカは質問者以外の者はここで何も発言してはならないことを思い出してじっと言葉を飲んだ。

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