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「もし聞くことがもうないんだったら、こんなのはどうですか? ウリウス様はいったいなぜ、こんなことをしているんですか?」
リギルは一瞬、確かにそれはとても聞きたいことだ、と思った。しかし、自分の中でその考えをすぐに否定した。そんな興味本位の質問をしに、わざわざここまで来たのではない。俺は何をしたいのだろう。結局何を求めているのか。それを考えなければならない。
リギルの様子を察して、ソハカは冗談が過ぎたと自省しつつも続けた。
「ですよね……と言うか、その問い、いいんじゃないかな? リギルさんはそもそも、なんで旅してきたのか。それ自体が重要な問いのようにも思えますけど……」
今度は、リギルは素直になるほど、と思った。自分でもよく分からずに、半ば感情に任せて旅立った。その行動そのものの意味を自分でも分からずに。むしろその意味自体を自分は探しているのではないか。そんな気もしてきた。
「うん。それはあるかもしれないなあ」
会衆の、クセルたちに対する否定か。抗議か……しかし、もう今となって振り返るとそんなことがあまり重要とも思えない。妻のことにしても。
いや、そんなことではない。そうではなく、あくまで俺自身のことだ。他でもない。まだはっきりとは表現できていないが、問題はそういう周囲のことではないはずなんだ。俺自身の問題として正面から見なければ、ずっと何も見えないはずなのだ。
「なるほどねえ」
急にソハカが口にしたのでリギルはソハカの顔を見た。
「やっぱり、リギルさん変わりましたよ。いや、初め会った頃のリギルさんは、もっと攻撃的で、悪く言えば、ちょっと人を見下すようなところがあって……しかもそんな自分を見ないようにしている感じがしました。私が言うと変ですが……リギルさん、大人になりましたよねえ」
「ふ、そうか?」
リギルは苦笑しながら思った。大人びて見えるとはいえ、ソハカはまだ少年の面影を残す若者。それに比べてリギルのほうはすでに初老に差し掛かる大の大人であった。しかし考えてみるとそうか、仮に昔の自分なら、親しくなったとはいえ今のソハカの言葉だけでもすでに激昂していたかもしれない。とにかく何でもすぐに感情的になって人を責めるようなところがあったという自覚を今は持っている。それだけでも、確かに俺は大人になったと言えるかもしれない。
「すいません、生意気なこと言って」
「いや、そのほうがいい。そうでなくてはソハカっぽくないしな」
順番待ちの行列は断続的に進んだ。どれほど待たされるかと思ったが、想像より進み具合は早かった。周囲で同じように待っている人たちを見ると、おそらく質問者よりも付添いの者のほうが多いのだろう。
女性が立っている角を曲がると、もうリギルたちの前には先頭が見え、その先には高い天井まで届きそうな重厚な扉があった。おそらく、その先が接見の間だ。
人々の話し声に紛れて接見の間からは時折どっと朗らかな笑い声が漏れてきた。中には人が大勢いるように思えた。話している内容までは聞こえないが、予想に反して気楽で楽しそうな雰囲気に聞こえた。リギルは思い付いて接見の間にいる人々の心を読もうとしてみた。だが何も伝わってこない。するとソハカが言った。
「リギルさん。知らない人の心は読めないですよ」
「ああ、そうだったな……」
「他人の様子より、もうすぐリギルさんの番ですから、話したいことをもう一度よく考えておいたほうが良くないですか?」
ソハカの言う通りだということはリギルにも分かっていた。しかし、すでにリギルの顔はこわばり、身体に要らぬ力が入っている。リギルは落ち着こうと何度も大きく息を吐いた。
ついにリギルの番が来た。