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「説明ではこちらが出せる質問は3つ。となればあらかじめ相当に的を絞って端的に問い、ウリウスの知見を引き出さなければならないだろう。俺はまだ何を問いたいのかすら漠然としている。もっとゆっくりと語り合えたらと期待していたのに」
「どうやらそのようですね。でも、聞いた話では、ウリウス様はそんな形式ばったことに捉われるような方とは思えないんですが……前の町でも言ってたじゃないですか、親身に話を聞いてもらったって」
「確かにそうだ、俺もそう思っていたんだが……もしかすると、前とはやり方が変わったのかもしれない。だが、いいんだ。とにかく俺は自分の知りたいことをぶつけてみようと思う。それで何が得られるかはその時のことだ。そもそも、ウリウスという人物に期待を抱き過ぎているのかもしれない。人が答えを出せるような問題ではないのだから」
ソハカはリギルの心を読みつつ少し考えた。
「その、いつもリギルさんが言う、人が答えを出せないことって、具体的には何でしたっけ?」
「え? それはつまり、まず調整というものがあるかどうか……」
ソハカはその言葉を遮った。
「前に仲間と話していた時、リギルさんも調整の存在を受け入れざるを得ないって言ってませんでしたっけ?」
「……そう、だったな」
「思うに、その問いに戻るのはいただけません。質問の機会は3度しかない。リギルさん自身がすでに答えを出している問題を問い直すのは得策じゃない」
「んむ……ソハカ、お前やっぱり賢いなあ。さすがは知の殿」
ソハカは照れる様子もなく得意げに笑った。
「では、もう調整はあるものとして……それでも、今その調整された結果がこの天の有り様ならば、その結果もクルが望んだ通りのものと言えるか?」
「そうそう。その調子……ちょっと思ったんですけど、結局、リギルさんが迷っていることって、調整はあんまり関係なくないですか? つまり今の天でのみんなの生き方が気に入らないんでしょ?」
「ううん、そうかも知れないが。ただ、人々が勝手にそう振舞っているのと、それがクルの力でそのようにされているという場合とでは、かなり話が違ってくるような気がしている。そうじゃないかな?」
リギルはしばらく一人で考えてから言った。
「よし。こうしよう」
第一の問いは、天での人の生き方はクルの望みに適ったものと言えるか? それに対するウリウスの答えが「是」ならば、それは調整の力によるものか? もしウリウスが「否」というなら、ではクルはなぜそれを調整しないのか?
リギルが心の中で組み立てた問いを、ソハカも感じていた。
「うん。それはいいかもしれないですね。リギルさん、リギルさんも賢いじゃないですか。さすが、色欲の町、のそばの町」
リギルはさっきのリギルの物言いを真似て、おどけると一人で笑った。リギルは面白いとは思わなかったが、一人で浮かれているソハカを見て苦笑いした。
「一応この線で行くとして……そうなると残る問いはあと一つだけか」
「……そうなりますね」
ソハカも少し真面目な顔をして答えた。二人はそれぞれに、あと一つ、何を問うのが最も有意義だろうかと思い巡らせた。