9
長い通路に長い行列ができていた。ところどころ間隔を置いて若い女性が立っている。彼女らは先頭を案内するものと同じく殿堂の女たちだ。人々は思い思いに話しているので非常に騒がしい。リギルとソハカは流れに合わせてだらだら歩いていたが、そのうちに列が進まなくなって止まった。
しばらく待っていたがもう列が進みそうにない。見ると周囲では通路の床に座り込んでいる者もいる。
「しばらく待ちそうですね」
「そうだな……もう少し早く来ればよかったな」
「そうですね。まあ、でも私はいいですよ。こうやって待つのも一興。どうせならゆっくり待ちましょうよ」
ソハカは手荷物から何か小粒の食べ物を取り出すと、口に放り込んだ。それから、同じものをもう一つ取り出してリギルに渡した。
リギルはそれを、ソハカのまねをして放り込むように口に入れた。軽く噛むと強い酸味がして、歯にまとわりついた。何度も噛むとその度に酸味が出た。
「それにしても……騒々しいな。なんだか、年祭に集まって浮かれているような感じだ」
「そうですね。外でも聞きましたけど、みんなもっと卑近な悩みを聞いてもらいたいようですよ。それに、やっぱりウリウス様を一目見たいって気持ちのほうが大きいようです。リギルさんみたいなことを聞きたい人って、たぶん少ないんでしょうね」
「ふう、いずれにしても、ソハカ。お前が一緒に来てくれて助かったよ。ここでこう待たされるのでは、一人なら退屈で仕方なかったところだ」
「ふふ……リギルさんあんまり人に話しかけるの得意じゃないみたいですもんね」
ソハカは悪戯っぽく笑ったがリギルは別に腹は立たなかった。
「そうだよな。昔はそんな風に感じたことはなかったんだが。ここに来てから気が付いたよ。俺は弱い人間だ。ソハカのことを尊敬しているよ」
「なんで私ですか? 尊敬なんて……ただ、ずうずうしいだけですよ」
「いや、そんなことはない。お前のいいところさ。実際、俺は頼りにしているんだ。ありがとう」
ソハカは照れた。
「あ、あらたまってそんなこと言われると、なんか変だな。リギルさん、少しおかしいんじゃないですか?」
リギルは久しぶりに笑った。そうかもしれない。妙に動揺しているのは自覚している。そして、直接は何も言わないが、ソハカがそばにいてくれるおかげで何とか感情の均衡を保っているような気がする。リギルはそっとソハカの心を探った。ソハカは、リギルを友達と感じているようだ。友達か……リギルは一人心の中でその言葉を反芻して微笑んだ。ソハカもリギルのそれを察した。二人は一瞬周囲の騒々しさを忘れて、互いの心にある友達という言葉を温かく感じ合っていた。
「じゃ、退屈しのぎに、ウリウス様への質問でもまとめましょうか。リギルさん、考えましたか?」