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それからしばらくの間ソハカは一人で町を散策したり、寝泊まりしている他の客たちと歓談したりしながら過ごした。時折、番札の数字の進み具合を確かめに殿堂へも出向いた。しかし、リギルはその間ほとんど部屋にいて、ソハカと話す以外はずっと一人で過ごした。
リギルは、一人でいるときに何度かイラの心を探ってみた。平穏に過ごしているようだが、うまく会話できる機会は得られなかった。リギルは技巧殿のカワダが拵えた小鹿の置物を取り出して、寝っころがったまま眺めたりしていた。考えるべきことが多いはずなのに、リギルはなぜか集中できずに多くの時間を無為に過ごしていた。
それでも、順番が近付いてくるとリギルはだんだん心配になってきた。結局のところ、ウリウスに会って所見を聞くべき内容がまとまらない。むしろ何をそんなに気にしていたのかすら分からなくなってきた。リギルが意識して考えようとすればするほど思考が拡散してうやむやになるような感覚に陥り、リギルは焦ってきた。
「もうすぐですよ。だいぶ待ちましたけど、リギルさんにとっては却って良かったかもしれないですね」
ソハカは他人事のように言った。リギルは、内心かなり焦っていることを自覚すると同時に、当然ソハカにもその感覚は伝わっているものと思った。それなのに、ソハカはまるで関心がないかのように楽しげだ。リギルは釈然としなかったが、それをソハカに言うのは単なる八つ当たりでしかないと諦めていた。
「俺は結局のところ、現世で信じていたような、当たり前と思っていたような観念が通用しないことに腹を立てていたのだと思う。もちろん、なじめないという感覚もある。しかし、それがクルの意思だと言われるとどうしても納得できないんだ。だから、要するに、俺が一番知りたいのはこの天が、この天で行われていることがすべてクルのご意思に適ったものだと言える根拠だ。ウリウスという人物に、問いたいことはそれだと思う……しかし、こんなことを聞いても、だれもまともに答えられないんじゃないかな? 所詮、人間の解釈に過ぎないわけだろう?」
ソハカはなぜか楽しそうに笑った。
「リギルさん。なんだか、今までのリギルさんと少し違った感じだ。よくそこまで自分の考えを整理できましたね」
「そうかな? 自分では、ぜんぜん何もまとまっていないような感じがするが」
「そうでもないと思いますよ。少なくとも、最初の頃よりずっと明確になってきている」
リギルは少し安心した。
「それに、周りの話だと、ウリウス様というのはとても優しい人格者のようですから。きっと何も心配はいりませんよ」
それを聞いてリギルは思い出したが……そう、自分はただ単に緊張や自信のなさだけで焦っているのではない。自分が不安に駆られる原因はむしろ、ウリウスという人物そのものへの不審だったのではないか。そして、そんな心をもって接すれば当然それが相手にも分かってしまうだろう。
「そんなことくらいで、気分を害されるような方じゃないと思うけどなあ」
ソハカは呑気だ。リギルは、いずれにしろ率直に自分の考えを伝え、それについて少しでも意味のある知見を伺えれば十分だと自分に言い聞かせた。