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天国のマセル  作者: 中至
ソハカの楽観
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二人は仕方なく、殿堂を後に石畳の大道を戻っていった。


「どうしますかリギルさん。ずいぶん待たなければならないようだし。どうせなら前の町に戻ってもう一度あのご主人に世話になりましょうか……」

「それもいいが、いつ順番が回ってくるかも分からないのでは、あまり離れていても不便だ」

「うーん。それもそうですね。どうせならこの辺りを観光と行きますか?」


ソハカは旅気分で少し浮かれているようだが、リギルはぜんぜん乗り気しなかった。するとそこに一人の男が近付いてきた。


「あなたがた。ウリウス様の接見を待つなら、あっちに宿舎があるから、そこを使うといい」


見知らぬ男だったのでリギルは咄嗟にその心を読んだ。しかしソハカは素直に礼を述べて、町の様子などを聞いている。リギルは、未だにどうしても他人を警戒する癖が抜けていないな、と自嘲した。


「あ、ありがとうございます」


立ち去ろうとする男にリギルはたどたどしく感謝を述べた。男は笑顔でリギルに向かって軽く頷くような会釈をすると、雑踏に消えた。


ソハカが男から聞いた通り、大道から外れて脇道に入ると人影は疎らでいったん道も細くなっていたが、少し行くとまた道幅が開けていて、人の多い場所に出た。


家の上にまた家を重ねたような造りの建物が道の両側にあった。様子からして、ここが男の言っていた旅用の宿舎に違いなかった。ソハカがきょろきょろしているうちに、リギルは珍しく先に自分から声をかけようと思って、一番近くの建物の入り口に足を踏み入れた。しかし、そこは待合のような広い作りになっていて混雑していた。リギルは声をかけそびれて黙って中の様子を見回していた。


後から入ったソハカが、


「リギルさん、ここは混み合っているようですから、もっと先のほうに行ってみましょう。遠くのほうが空いているかもしれない」


リギルはそれもそうだと思ってソハカに従った。その道をもう少し進むと、確かに心なしか人の数が少ないようにも思えた。ソハカは、


「リギルさん。この辺で入ってみましょうか?」


と聞いたが、自分ではまだ建物に入らずリギルの顔を見ていた。リギルは促されているように思ったので、自分から先に建物に入った。その中は同じように広くなっていたが人は一人しかいなかった。年配の婦人だった。


「すみませんが。旅の者です。ここで休ませてもらえると聞いたもので」


リギルは婦人に向かって挨拶をした。ソハカはその後ろに付き従って立っていた。婦人は慇懃に旅のねぎらいを言って、二人を奥へ通した。奥は広い間にいくつかの卓があって、すでに何組かの人たちが談笑していた。


「ようお越しくださいました、ご用意できるまでここで少しお休みください」


そう言って婦人は一つの卓を示した。リギルは腰かけてふうと息を吐いた。ソハカの顔を見た。ソハカは座らずに、近くで話していた他の旅行者のところへ行き、しばらく何か言葉を交わしていたかと思うと、隅のほうにあった飲み物を目ざとく見つけるとそれを二つ取ってリギルのところに戻った。


リギルはその様子を座ったままでじっと見ていた。何となく、あいつは本当に物怖じしないやつだ、などと感心していた。ソハカは席に座らず両手に飲み物を持ったままリギルに言った。


「リギルさん、あちらの方々もウリウス様に会いたいようですよ。何か分かるかもしれない」


リギルは、ソハカのそつのない行動に、さらに感心した。そして促されるままにソハカに付いて席を移動した。

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