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ウリウスの殿堂がある町は資料では「覇の源」という名だった。ソハカとリギルは他の都市の中には入らずに街道伝いに回り込むようにして直接それを目指した。
この都市群の周囲は他と違って街道に人が大勢見えた。人の流れに逆らわないように二人は馬機の速度を落とし、ゆっくりと進んだ。
ひときわ人気の多いところに進入すると、だだっ広い石畳の大道があった。二人はそこで馬機から降りて石畳の上に降り立つと、大道はまっすぐに町中に伸びていてその先には驚くほど大きな神殿のような建物がそびえ立っている。数えきれないほどの人々が行き交っていてリギルは圧倒された。ソハカもそれに共感して
「すごい賑わいですね」
と呟くように言った。尚もリギルは呆然とつっ立っていたが、その間にソハカは道を行く一人に声をかけて、あれがウリウスのいる殿堂であることを確かめていた。
「やっぱり、あそこにウリウス様がいらっしゃるようです。リギルさん。行ってみましょうか」
「ああ」
リギルは、色欲の町でその繁華街を見た時の衝撃を思い出していた。あの時も巨大な建築物と群衆の活気に圧倒されたが、覇の源のウリウスの殿堂は、ただ巨大なだけでなく荘厳で華麗、煌びやかな中にも重厚さがあるように思えた。ただし、それは事前に知ったウリウスに対する畏怖から来るのかもしれない。とにかくリギルは内心脚のすくむような思いがしていた。
一方のソハカはウリウスに接見できるという期待感のほうが勝っていた。
「リギルさん。まだ、すぐに会えるかどうかも分かりませんし、一度、見るだけ見に行ってみましょうよ」
「よし」
リギルは自分を奮い立たせるように短く気を吐くと、殿堂に向かって歩き出した。大道のど真ん中をリギルは先に歩き、ソハカは町の賑わいを楽しむように見回しながら後ろをついて行った。
近付くと巨大な殿堂が目の前に立ちはだかるように見えた。次第に人ごみが激しくていっしょに歩くこともままならないようになった。
「何なんだ! こいつらは」
リギルは殿堂の前で混雑に気圧されて立ち止まった。その一角にひときわ群がるように押し合っている人々がいて、リギルはそれを呆然と見ていた。しばらく見ていると、多くの人は殿堂の脇で何かを貰うために我先にと群がっているようだった。リギルはちょうどそこから抜け出て立ち去ろうとする一人の男の腕を掴まえて尋ねた。
「おい、あそこで何をやっている? 何があるんだ」
男は怪訝な顔でリギルを睨み返し、無理矢理腕を振りほどいて答えた。
「何って、決まってんだろ? 番札を貰いに来たんだよ」
「番札?」
後から追いついたソハカがリギルを制止して言った。
「どうも、すみません。私たちは遠方から来て、ウリウス様に会いたいのですが、どうしたらよいか分からなかったもので。失礼お許しください」
ソハカはリギルの非礼を代わりに詫びつつ事情を説明した。
「そうなのかい。あのなあ、ウリウス様に会いたいんなら、まずこの番札を手に入れなきゃいけないんだよ」
男は手に握ったものを見せた。男によると、殿堂の脇で配る番号が書かれた札を貰い、殿堂内でその番号が告げられると、その番号を持っている者たちだけが殿堂内に立ち入ることができるらしい。
「よし、とにかくその番札というのを手に入れよう」
今度はソハカが先になって群がる人々をかき分けながら進んだ。リギルは躊躇している間にソハカが番札を2枚取ってきてくれたので、1枚を貰った。