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天国のマセル  作者: 中至
ソハカの楽観
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ソハカは請け負っている町の役務や所用を整理し、出立の準備を終えた。しかし、リギルのほうは未だ混迷の中にいた。そもそも、すんなりと答えの出るような悩みではない。それは仕方なかったが、リギルは気持ちの整理がつかないままにウリウスと面するのを少し怖れるようになっていた。


相手は知の王である。あるいは、一方的に崩し難い理屈を突きつけられて、結局不本意なこの天の有り様を受け入れざるを得なくなってしまうのではないか? このままウリウスに会えば、クルによる調整云々を待たずとも自分が氷解してしまう……そんな怖れが育っていた。


ソハカも当然それに気が付いたが、ソハカはあえてそれを黙殺するようにみんなに出立の予定を告げた。ソハカにとっては、リギルが抱いている怖れはつまり非合理な執着、無用な躊躇に過ぎなかった。


リギルとソハカは、仲間たちと、ソハカの母親に見送られて知の王ウリウスの殿堂へと発った。ソハカは、リギルのそれよりも数倍以上の性能を持つ馬機を二人分用意していたが、それをもってしてもウリウスの殿堂は途方もなく遠い。ソハカとリギルは、いくつかの都市群を経由したが、ただ休むために留まっただけですぐに出立した。だが、


「ここを出たら、ついにウリウスのいる都市群に辿りつくぞ」


というところで、ソハカは


「久しぶりに風呂に入りたいなあ」


と言った。もうすぐウリウスに会うと実感するにつれて自分自身緊張していたこともあったが、それは同時にリギルの心に見える強い不安と警戒を少しでも解きほぐそうという配慮でもあった。


ソハカが町の住人に公に使える浴場がないか尋ねると、一人の男が快く願いを聞いてくれた。


「公衆用のはないが、お前さんたちよかったら、うちに来て入って行ったらどうだ?」


二人は素直に甘えた。その家の風呂はソハカの家のよりも小さかったので、二人一緒にというわけにはいかなかったが、それぞれにゆったりと湯に浸かった。


リギルは湯に浸かりながらウリウスという人物に何をどう話せばよいかを想像した。ウリウスは白髪の老人で、その知力と探究心は凄まじく、その名は天に轟いていると資料にあった。リギルは自分がそんな人物と対峙して何をまともに議論できるかと何度も考えたが、まだはっきり言葉が浮かんでいなかった。


ふと、あまり長湯しては迷惑だと考えてリギルは風呂を出た。先に済ませたソハカと家の主が寛いで談笑していた。


「あんた、ウリウス様に話を聞いてもらうんだって?」

「そう……できれば会いたいと思っている」

「ウリウス様は偉大なお方だ。実はわしも昔悩みを聞いてもらったことがあるのでな。とても親身になって聞いてくれた。やさしい方じゃ。お前さんも、何でもウリウス様に話してみればいい」


リギルは少し安堵した。少なくとも、ウリウスに会うことは現実的になったと思った。それに主の話によれば……悪いが、この見るからに朴訥そうな主の話を親身に聞いてくれたというのだから、よもや自分の疑問を一蹴したり、門前払いするようなことはないだろう。


主はそんなリギルの思いを知ってか知らずか、相変わらず笑顔でいる。


「ただ、殿堂はいつもウリウス様に会いたい連中でいっぱいだからな。あんたらも大分待たされることになるからな。覚悟して行くんだな」

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