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「嫉妬だね」
ソハカはそう思っているようだった。リギルは一瞬敵意を持ってソハカを睨んだ。しかし、すぐにその気持ちは収まった。なぜなら、言われてみればその通りだからである。この世界の様相がどうという問題はある。しかし、自分は今そのために腹を立てたわけではない。とにかく今腹を立てたのは明らかに嫉妬から来るものだ。リギルはそのことにすぐに気が付いて
「いや、すまない」
とソハカに謝った。
「いいえ。何でもありません。それより、僕にはその気持ちがあまり分からない。リギルさんはなぜその……引き受けのイラという人が他の者と付き合うことをそんなに嫌がるんですか?」
リギルは意味が分からなかった。当たり前じゃないか、と思った。しかし、考えてみると、今までの経緯から考えてこの天ではむしろ自分のほうがおかしいのだ。現世的な、異常な執着に縛られている人間と見做されてしまう。
「いや、そういう意味ではなくてですね」
ソハカはリギルの思っていることを察して否定した。
「リギルさんに嫉妬の感情が強くあることは理解できます。リギルさんだけじゃない。嫉妬の感情はごく一般的なものです。ただ、僕自身はそういう感覚を持ったことがないということです。だって、相手を自分の物のように独占しようというのが嫉妬でしょう? 僕はそういう感覚は分からないんです。そんなのは友達とは言えないと思うし、そんな相手との付き合いは虚しい」
リギルは何となく聞いていた。確かに……しかし、だからと言って、相手の精神的な自由を認めることと、単に性的に放漫なこととは違うだろうと思った。違う? 何が違うのか? その根拠が現世的な規範か。俺はその規範を盾に嫉妬を正当化しているだけなのか? リギルは一瞬思考が錯綜して何も言葉にできなかった。
「リギルさん。リギルさんが調整について拘っているのもその辺りに関係があるのではないでしょうか。仮に……仮に嫉妬する必要がないとしたら? その他の面で調整が働くことをリギルさんはどう思うでしょうか。おそらく何の問題も感じない。要するに自分にとって都合の良い面では調整は歓迎だ。自分がこだわっている部分だけは調整しないでほしい。そういうことでしょうか?」
ソハカは気兼ねを省みずあえて率直に言葉にしているのがリギルにも分かった。そうか。これが知の殿の気質。物事を曖昧にせず、まっすぐに論を進めてゆく。なるほど、とリギルは妙に感心した。
「それは一理あるな……」
リギルはいったん納得しそうになった。だが待て。ではマセルはどうだ? 俺はマセルを独占したいわけではない。むしろ、マセルを自由にしたいのではないのか? マセルが、あのマセルが調整されてしまうことが許せないから。しかし……そうやって、それが許せないのだと言い張っていることこそが自分の都合かもしれない。結局、俺が言っていることは自分。自分の意思をもって、クルの意思を曲げさせようと抗っているだけなのか?
リギルはふと思い付いて言った。
「ソハカ。ちょっと思ったんだが。仮に俺が自分の思い込みだけで調整を否定しているとする。でも、今そうやっていること自体、なぜ調整されない? いっそのこと、俺のこんな考え自体を調整してしまえば、何の疑問も起こらないではないか」