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マセルはクセルや他の会衆の者たちから何度も再婚を勧められたが頑なに断って40歳を過ぎた。そしてちょうどそのころ、会衆は最大の危機に直面した。会衆を含む一帯を治めるバツカノ王が禁教政策を取り始めたからである。
すでに付近の多くの都市が王の要求を拒否したために滅ぼされていた。最初クル教の会衆は、積極的な布教活動も行わず規模もごく小さいために迫害を免れるかもしれないと希望を持っていた。しかしついにその希望は打ち砕かれようとしていた。
王の使者が現れ、会衆に最終的な決断を迫った。会衆の全員がいかなる神の信仰者でもないということを示す儀式に参加しなければバツカノ領内に居住する権利をはく奪するという。
統率のとれた管理体系を持たない会衆は混乱した。男たちは毎日のように集まったが議論は堂々巡りだった。
王の使者は会衆の様子をたびたび監視に来るようになった。彼らは特に何の指図もせず表向き紳士的な態度でクセルたちに接した。
そのうちクセルたち一部の者が王国の命令通りに忌むべき獣の像を作り始めた。この獣像は、自分たちがクルの信徒ではないということを公に示すために王国の儀式殿に納めるためのもので、その獣像の前で、会衆の男たちは自分たちの手でクル像を破壊することになる。
居住権のはく奪と言うが、付近一帯の状況から見て、獣像の献納と会衆全員の儀式への出席をもし拒めば王の軍勢がたちどころに会衆とその家族全員を虐殺するだろうことは明白だった。
会衆の総意がまとまらないままに獣像を作り始めたクセルたちに異を唱える者も多くいたが、といって別に何の策があるはずもない。このままでは命令に従うにしろ準備が間に合わない。クセルたちがとりあえず獣像の制作に取り掛かったことは、ある意味合理的な判断だった。
結局、会衆は何ら最終的な決断に至らないまま選択の猶予を失った。