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リギルは棚の片っ端から興味に任せて貪るように読み漁っていった。文字の周囲が白く眩しすぎる感じがして文字を追うのが苦痛になってくる。それでもリギルはできるだけ長い間我慢して読み耽っていたが、ついにどうにも目が乾いて苦しくなったので、リギルは読み散らかしたまま、天井を仰いでそのまましばらく目を閉じた。今読んだ雑多な情報と、そのせいで新たに生まれたたくさんの疑問が頭の中を駆け巡っているように思えた。
断片的にではあるが、天に住む人々の歴史や特性についてはかなり詳しい記述があった。それに、現世で高い技術を得た時代の人々が天氷の加工に大きく貢献してきたことも分かった。しかし、リギルが一番知りたかったこと、つまりクルの意思や目的、それに「調整」について書かれたものは僅かで、それも仮説や私見の域を出なかった。
「うーん……」
リギルは目を開き、一人唸った。
「母さん! リギルは僕の部屋?」
部屋の外でソハカの大きな声がした。リギルは思わず自分から部屋を出てソハカを迎えた。聞きたいことがたくさんあるような気がした。
「ああ。リギルさん、すっかり待たせちゃったね。僕の資料見たかい?」
「ああ。知らないことがいろいろあったよ……」
「よかった。あ、ちょっと待っててよ。着替えてくるから」
ソハカはすぐに戻ってきた。
「リギルさん疲れてない?」
「うん、まあ少し。でも大丈夫だよ」
「そう? 後でみんなに紹介しようと思うんだけど、その前に少し休んだら?」
しばらくすると母親が来た。
「準備できたわよ。リギルさんもどうぞ」
「リギルさん、風呂使ったことある? 一緒に入ろうよ」
リギルは全身を浸すことのできる湯を貯めた風呂に入ったことがなかった。最初は断ったが、ソハカが強く進めるのでリギルは生まれて初めて風呂に入った。ソハカの手ほどきに従って頭から湯を浴び、脚をこすって洗い、浴槽にゆっくりと全身を沈めた。ソハカと向き合って互いに足を伸ばしても届かないほど十分に広かった。どぼどぼどぼと新しい湯が注がれている音を聞きながら浴槽につかるのは非常に気分が良かった。リギルは何度も低い声を出して息を吐いた。体内に貯まった疲労が息と一緒に吐き出されているような感覚だった。
出るとリギルの着ていた服はすでに洗濯され、きれいに畳まれていた。
「こんなことまでしてもらって、大変申し訳ない」
リギルは恐縮して礼を言った。母親はただ微笑んでいた。
リギルは食事を得て、しばらくゆっくりと寛いだ。ソハカの家は少し無機質な感じもしたが、設備が整っていて非常に快適だとリギルは思った。それに、ソハカとその母親の不自然でない好意に安らぎを感じた。