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しばらく呆然と座り込んでいたが、リギルは徐に立ち上がると、もう一度辺りを見回した。ここは氷原、といってもその一番下端に達したに過ぎない。あっちに戻れば色欲の町。右は物欲。左は技巧殿の町。ここから氷原を突き進んでいけば、知の殿の町に至る……リギルは、自分が今立っている地点を再確認するかのように心の中でそう唱えた。制御棒を引っ張り出すと、馬機がすっと浮いた。
リギルは、今度は馬機に乗ってさらに広い範囲をうろうろと見て回った。馬機は地面から一定の高さに浮くので、氷原の小さな隆起や突出に合わせていちいち上下した。リギルは、町でヤヨニといっしょに昇降機に乗った時の感覚を思い出した。リギルはかすかに微笑んだ。
そうして落ち着いて思い出してみると、リギルは自分で誤解があることに気付いた。
リギルはさっき、ついイラが実際に男たちと交わっていると考えて狼狽えた。しかし、そうだ。何の行為にせよ、それをしているのと同時に内心でその情景を再現することなどないのだった。心にその像が鮮明に浮かぶとき、それは今行っていることではない。リギルは動揺してつい早合点してしまったことに気が付いた。つまり、あれはイラ自身が過去の経験を思い出しているか、そうでなければ妄想していたか。
「ああ……」
分かった。イラはきっと自慰をしていたのだと。リギルはふっと小さく笑った。そして、一人ふうんと頷いた。不規則に突出する天氷の間を、馬機は滑らかにすり抜けて行った。




