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薄暗い広間を出て、入り口とは反対側の通路に進むと大きな柱が立っていて、その柱に大きな両開きの扉が付いていた。女が扉の脇に軽く触れると扉が音も立てずに開き、中は小さな個室のようで何もなく、二人が入ると扉は勝手に閉まった。
しばらくすると全身を上下から押し潰されているような不思議な感覚が襲って、リギルは一瞬慌てた。しかし、女は平然と閉まったままの扉を見つめている。不思議な感覚はすぐに治まって扉がまた勝手に開いた。リギルは女を見た。女はふっと笑って扉から外に出た。リギルはまた驚いた。まったく違う場所に出たからだ。
「昇降機よ」
女は優しく答えた。それは高い建物の中を昇り降りするためのものであった。通路にある窓は何か目には見えない固く丈夫なもので閉ざされているようだった。近付いて見ると地面がはるか下にあった。
女に引っ張られるようにして部屋に入ると中は最初真っ暗だったが、扉が閉まると同時に天井がぼんやりと光り出して明るくなった。しかし、リギルはある意味感動していた。
「何をそんなに喜んでいるの?」
それを察した女が不思議そうに聞いた。
「ああ、いや暗闇が久しぶりだったので嬉しくてね。ずっと明るいというのは意外に疲れるものだ」
「そうね。確かにそうだわね」
リギルが打ち解けたように話すのを聞いて女は多少安堵した。リギルは別に女のことを悪く思っているわけではない。ただ面喰っている。それに、そもそも知らないことだらけで戸惑っている。それと……ああ、私が性的な関わりを持とうとしていることを警戒している?
女がそのようにリギルの心を感じていることはリギルのほうにも分かった。リギルは相手と互いに心を読み合うやり方にかなり慣れてきた。そう、天ではこれは自然なことなのだ。人の心が読み取れてしまうというのも案外役に立つな、とリギルは今さらのように思った。
リギルは女に分からせるためにあえてイラのことを心に浮かべた。リギルが特定の女のことを心に置いているのが分かれば無理に関係を迫ろうとはしないだろう。イラという女。おそらくリギルと関係した女だろう。あるいは引き受けの女か……この町に来て女のことを思うなんて。あるいは、まだ罪の意識が残っているのかもしれない、と女は思った。
「あなたの名は?」
「ああ、まだ言ってなかったわよね。私はヤヨニです」
とにかく……ヤヨニは今ひとつリギルの意図が読めないまま、それでもリギルの肩に腕を回し、それを腰まで滑らせてリギルの装束を縛っている帯を解こうとした。リギルはヤヨニが何をしようとしているかは理解できたが、もうあまり慌てなかった。腰に回した腕をゆっくりとなぞり、リギルはヤヨニの両手を捕まえると、ゆっくりと自分の身体から離した。ヤヨニの手を合わせるように握りしめたままリギルは言った。
「あなたは、どうして私と関係を持ちたいと思うのか?」
「どうしてって……そんなこと、口に出すのはいけないわ」
「心で思っているなら同じことだろう?」
「でも……言葉にしてしまうのは野暮だわ」