3
男が連れてきたところは、殿堂のような四角い建物で、その外壁は鉱石を磨いたように滑らかだった。大きな門のような入り口を通り抜けると、内壁も床も同じで、奥には少し暗くなった広間のようなところがあって、重厚な調度品が飾ってあり、広々とした卓卓がいくつかあった。
男はリギルに座るよう促すと何を飲むかと尋ねた。ここはたいていどんなものでも揃っているし、もしよければ酒もあると勧めたが、リギルは、この世話人とかいう男が、会ってから終始しゃべり通しだったのであえてぶっきらぼうに答えた。
「水を一杯でよい」
男は苦笑いしつつも水を頼みに行った。しばらくして、また満面の笑みでリギルのところに戻ってくると、また調子良くしゃべりだした。男はヤンムアンダと名乗った。
「リギルだ」
リギルの素っ気ない雰囲気にもおかまいなしに、男はさらに旅の目的やら滞在日程やらを尋ねた。
リギルは思い付いて、馬機というのが手に入るか尋ねた。
「ああ、はい。馬機でしたらすぐにでも手に入れることができましょう。あるいは動力車も注文できますが。ただ、動力車は作製にしばらく時間がかかります」
説明では馬機というのは一人乗りの簡易な乗り物で、速力はむしろ馬機のほうが優れている。動力車は通常4人ほどが一度に乗ることができるもので、注文に応じて様々な姿態や機能が選べるらしい。他にも優れた乗り物が多数……男はしたり顔であらゆる移動手段を解説した。
漸く男の解説が終わったので、次にリギルは宿を取れるかと聞いた。
「それでしたらご心配は無用でございます。すでに先ほど用意しておきましたので。ここです。ここが旅の方用の宿ですので、すぐにでもお部屋を使えるようになっております」
男が自慢げに語るので、リギルは一応礼を言った。そこへ、見知らぬ若い女が割って入ってきた。男は立ち上がると女に席を譲った。入れ替わりに女が黙って座った。
「さて……私はこれでお暇します。後はこの者に何なりとお申し付けください。ではリギル様。良い旅をお楽しみください」
男は最後までにこやかで慇懃、それに何となく誇らしげであった。男が立ち去っても女が何も言わないのでリギルのほうから話し出した。
「それで? あなたも世話人なのか?」
「あ、いいえ。私はさっき知らせを受けたので、それで……まずは町を案内しましょうか? それともすぐに部屋に行きましょうか。私はそれでも構わないわ」
「そうだな、一度部屋に行って休みたい。それに、少し話が聞きたいのだが」
「まあ……優しい方ね。ここは初めて?」
「ああそうだ。それに、私はまだ天に来たばかりで、他にもいろいろわからないことがある」
「まあそう……それなのに、もう旅をなさっているの? またどうして。御身内の方とは会ったんでしょう?」
「いや……会うには会ったが」
リギルは何をどう説明すればよいのか迷った。
「まあ、とにかく部屋に行きましょうか。私もゆっくり……話を聞かせてほしいわ」
女が立つと割と背が高かったが、その表情はまだ幼さを残しているように見えた。おそらくイラよりもさらに若い。女が何かみだらなことをしようとしているのがリギルにも分かった。しかし、リギルはそういう感覚に出会ってもいちいち驚かなくなっていた。
「では行きましょう」
まだ席に座っていたリギルの腕を取って、女が自分の腕を絡ませて立ち上がらせようとしてもリギルは落ち着いてそれに応じた。しかし、女はリギルのむしろ冷淡な、侮蔑的な感情を読み取ったのか、一瞬リギルの顔を見つめて腕を引っ込めた。
「あ、あの……?」
女は少し怯えているようだ。
「いや、いいんだ。さあ、案内してくれるか? 私は疲れたので少しゆっくりしたいんだ」
「え? ええ……」
リギルはわざと無表情に女の顔を見つめた。二人は少し間をあけたまま並んで歩いた。