10
リギルとディヤンは、その後しばらく黙って酒を飲んだ。だんだんと口数は少なくなったが、互いに気まずいという感じはなかった。リギルは、自分がこれから先どこへ向かうべきかを考えていた。もしかすると、この先当てもなく彷徨い続けることにほとんど意味はないかもしれない。しかし、少なくともこの世界の大方の成り立ちを知るのは必要だと思う。
「天氷というのは、だれでも得られるものなのか?」
「ええ。だれでも好きなだけ」
「どんな物にでもなるのか?」
「ええ。ただし、その技術があればね」
リギルは、先のことはとにかく、まずは関心に任せて氷原に向かおうと思った。
「この先も歩いて旅するつもり?」
「いや、歩いて見て分かったが、途方もない距離だし、街道にはこれと言って何も……正直言えば、一人で歩いていると気が遠くなるよ」
ディヤンは少し笑った。
「そうよね。何にもないものね」
リギルも苦笑した。
「イラにも忠告されたんだが……でも、歩いてみて良かった気もするよ。これ以上はごめんだけどね」
「本当にもう行く? きっとナトカが寂しがるわ」
リギルがすぐにでも旅立とうとしているのを察して、ディヤンは言った。リギルは黙って椅子から立った。
「ああ。またここを通ることがあったら……その時はまた」
「そう、良い旅を」
「いろいろありがとう。ナトカによろしく」
家を出て、最後にリギルは微笑んで別れを告げた。ディヤンの顔を見ると、ディヤンの心にリギルに抱きしめられる自分の姿が映っていた。ディヤンはもう何も言わなかったが、その様子は決して性的な感覚ではない。どちらかというと子供が肉親にすがるような素直な感情のようにリギルには思えた。
「ディヤン……」
リギルはもう一度ディヤンに近付くと、何を言わずにディヤンを抱きしめて、そのままゆっくりと互いの呼吸を感じた。リギルは色欲の町に向かった。