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リギルはそのままイラの家にいた。イラは心を読むやり方を丁寧に教えた。そうしながらイラは少しずつ自分のことをリギルに伝えようとした。もちろんイラのほうは、天で目覚めてから今までのリギルの心の動きはすべて見て取れた。イラは、リギルの心の変化に気を配りながら、リギルが怯えないように自分の思考を常にコントロールしながら慎重に慎重に自分の心を開いていった。
おかげでリギルは多くの人々が自然にそれを習得するよりもかなり早くそれを会得することができ、その頃にはリギルとイラは、思い出すこともなかったのに突然再開した昔の恋人のように互いを深く知り合っていた。
イラはリギルには、クセルや他の男たちに見せたような激しい欲情は見せなかった。見せないというより、なぜかリギルに対してそういう感情、つまり、襲いかかるような性的願望を抱くことがなかった。イラはいつもそれを見せつけることで男たちを虜にして思うままにそれを満たしてきたのだ。しかしリギルと相対したとき、いつものような激しい劣情に身を委ねたいという衝動が全然起こらなかったので実はイラは少し戸惑っていた。リギルに対して抱いている感情が、ごくふつう異性に感じる情愛や親密さという類の感情だということに、まだ思い至らなかった。だがイラは自分の信じるところ、つまり素直に自分の気持ちの赴くところを行うという自分の習慣に従ってリギルに接した。
リギルはイラの心がずいぶん分かってきたのと同時に、今度は妻やクセルたち会衆の仲間たちの心を探り始めた。初めは、ある程度落ち着いたら妻のところに戻り、会って直接話そうと考えていたが、その気持ちはかなり薄れていた。妻の心が分かってみると、その中にリギルのことがほとんど現れないことに気が付いたからであった。考えてみればそれは生前からずっとそうだったのではないかと感じた。そしてリギル自身も、もはや妻やクセルたちにほとんど関心がなかった。
リギルは天において、生前の人間関係にはもはや捉われたくないと決心した。イラは、万事がそうであるように
「あなたの望むようにすべきだわ」
とだけ言った。だが、リギルにとってそれは、イラと共にいる、という意味ではなかった。クセルは旅に出ようと考えていた。
「イラ。少し考えていたのだが」
「そう……」
「うん。あなたは、ここでは本心から望んでいることは何でも叶えられるはずだと言ったな。どんな望みでもいいなら俺はマセルに会いたい」
言いながら、リギルは当然それは不可能だと思っていた。しかし意外にもイラは
「望むなら、叶うでしょう」
と告げた。リギルが自分のもとを発とうとしていることを察してイラは居たたまれない気持ちになったが、一緒に行きたい、とは思わなかった。
「イラ。俺はきっとまた戻ってくる」
「私はいつでもここにいるわ」
「ああ……一つだけ願いがある。聞いてくれるか?」
「分かるわ、リギル。でも私は私の心に従うだけよ」
リギルとイラはきつく互いを抱きしめた。リギルは旅立った。




