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どれくらい時間が経ったか分からなかった。リギルはふと我に返り、立ち上がってとぼとぼと歩き出した。妻の家にではない。向かう先はイラのところだった。
おそらく妻やクセルたちとまた会って議論したところで同じ結果になるだけだろうと思った。それよりもまず相手の心が読めるようになることが先決だろう。そうすればもっと露骨に人々の考えを知ることができる。何かを判断するのはそれからでも遅くはない。
自分にはまだ情報が少なすぎる。イラにはまだいろいろ聞きたいこともある。リギルにとって、ここに来て最も信頼のおける人間は、妻や会衆の仲間たちではなかった。
それほど時間もたっていないというのにまた来てしまっては変に思われないだろうかと思い巡らせながら、リギルはゆっくりと歩いた。イラの家の前に辿りつくと少し躊躇したが、他にどうしようもないと感じて入った。廊下に進んで一度
「イラ」
と声をかけたが返事はない。そのまま部屋を覗き込むとイラが最初と同じように膝を崩して座っていたので狼狽えた。
「リギル。どうぞ」
イラはにっこりと微笑んでゆっくりした口調でリギルを誘った。
「私の横に座って」
リギルは敷物の端のほうに胡坐で座った。
「私の横と言ったでしょう?」
イラは膝を崩したままリギルの脇にずれると、触れるか触れないほどに寄り添うようにして言った。
「体の力を抜いて。リギル、まだ何もしないわ。安心して」
リギルは少し警戒したがそれよりもたくさんの複雑な感情に縛られているような気がして、拒む気力も起きなかった。イラはいつの間にかぴったりと体をリギルに寄せていた。
「イラ。私はどうしていいか分からない。どうすればいいか……」
「眠いのよ」
リギルは、そう言えば、感情が混乱していると感じていたのはよく考えると眠気が襲っているからだと思った。目を閉じると一気に意識が遠のくような感覚に襲われた。リギルは眠ってしまった。
どれくらい後か分からないが、目が覚めるとリギルははっとして部屋の中を見回した。イラの姿がないのでしばらく茫然としていた。
「リギル」
イラの声がして、姿を現したイラは前よりも艶のない無柄のさっぱりした服を着て現れた。
「久しぶりに料理を作ってみたけど、食べる?」
リギルは、そう言えば何も食べていなかったと思った。しかし、別段空腹を感じてもいなかった。だがイラの好意に応えようと
「ああ、ありがとう」
と答えた。イラの後について別の部屋に入ると、食卓があって、すでに大小の皿が並んでいた。前の部屋と違って、大きな窓から外の光が十分に差し込み、明るかった。リギルの好みに合わせられるように、イラは多様な料理を用意していた。
「お世辞を言ってもだめよ。分かっちゃうんだから」
その通りだと思ったのでリギルは口に合うものを気の向くままに貪った。