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「これは私の大好きな茶酒よ。飲んでみて」
クセルは自分の考えに没頭していたので、いつの間にかイラが戻ってきて隣に座っていることに気が付かなかった。
「あなたは、なぜ私をここへ呼んだのだ? それとも、さっきの婦人がそうするように指図したのか? なぜあなたは、それを受け入れるのだ……なぜクルは人の悪しき望みを諌めようとしないのだ!」
クセルは今までだれにも聞けずに抑えていたものを吐き出すかのように、次々に問い質した。だがイラはすぐに答えず、もう一度茶酒を勧めた。クセルが動かないのを見ると、イラは
「大丈夫。別に何も入ってないわ」
と言って屈託のない笑顔でクセルを見つめている。クセルは観念したようにそれを一口飲んだ。
「ふふ」
イラは、まるであらかじめ分かっていたかのようにクセルの支離滅裂な質問に逐一丁寧に答えてくれた。必ずしも納得したわけではないが、クセルはイラのそのような態度に好感を抱いた。
イラの言うところによると、天に来た人は、しばらくするとみなイラのような者に会う。広場で婦人がクセルに声をかけたとき、だれも止めようとせず黙って見送ったのは、その婦人が引き合わせの者だと知っていたからだ。
このような役目の者は男女それぞれ何人もいて、天に来た者は必ず引合わされることになる。またクセルのようにそれが男である場合には、たいていその者が天で最初に関係を持つ者となる。イラ自身、すでに無数の男と関係を持っていることを臆面もなく語った。
天においてはもはや何の罪も掟もあり得ず、人々は意のままにどんな願望も欲求も叶えることができるはずだとイラは言った。それはもちろん性的なものでも、非社会的なものでも。現世においてあらゆる宗教が罪と定めているような行為もすべて。
「にわかには信じがたい。……しかし、あなたの言うことが間違いだとも、今の私には分からない。とにかく私はまだ何も知らないんだ」
「ええ。そうでしょうね」
クセルはいつの間にかイラに心を許していることに気が付いた。それにイラは若く美しかった。
「長居してしまった。少し考えてみる。その……あらためて話を聞きに来てもよいかな?」
「もちろん。また逢いましょう。私はいつでもここにいるわ」
数日ほどたったと思われる日、自らイラのもとを訪れたときクセルはイラと関係した。