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二人とも息が乱れていた。息を整える間を待ってから、イリアエルはマセルの腕を掴むようにして言った。
「とにかく、もういいだろう。一緒に戻ろう。見ろこの膨大な光源を。すごい量だぞ? 早く帰ってみんなに知らせよう」
マセルはゆっくりと真顔になって、腕を掴むイリアエルの手を静かに制して答えた。
「いいんだ……イリアエル、お前はもう戻ってみんなに伝えろ」
「なぜだ!」
イリアエルが激情に沸いたように怒って叫んだ。
「どこまで行くつもりだ! 何をするつもりなんだ! いいかげんにしろ」
「……何と言われようが俺は戻らん。だがお前は戻れイリアエル」
イリアエルはしばらくわなわなと頬を震わせていたが、あまりにも頑ななマセルの言葉に不意に力が抜けるような気がした。
「……お前はいったいなんなんだ……いったいどこまで」
イリアエルのやり切れぬような寂しさはマセルにも分かった。しかしマセルはそれでもまったく意に介さないかのように少しおどけたような調子で言った。
「どうしてもと言うなら力尽くで連れて帰るんだな。もう一度、まいったと言わせられるか? 俺に……」
しかしイリアエルはマセルが言い終わる間もなくマセルの頬を思い切り殴っていた。
「ばかやろう! これは冗談じゃないんだ!」
マセルは光源の中に仰向けに尻から倒れながら、しかしそれでもまだ笑っていた。
「イリアエル、お前の気持ちは嬉しいんだ。だが……やはり俺は。何かが俺に進めと言うんだ……俺自身、かもしれないな」
「自分、自分とお前はいつまでも。他人の気持ちを考えたことあるのか? なぜわざわざ一人ぼっちになるようなことばかりするんだ! やっとみんなと分かり合えたんじゃないか」
イリアエルは言いながら俯いて目を逸らした。その拳が小刻みに震えていた。
少しの沈黙があった。
マセルは何も言わず急に起き上がると光源をかき分けて一人で進みだした。そうしながら、マセルは大声で叫んだ。
「じゃあ何を信じればいい! 自分が自分でないのなら! お前もまたお前でないなら。じゃあ俺たちは、誰に向かって言葉を吐いているのだ!」
マセルが何を叫んでいるのか、イリアエルには断片的にしか聞き取れなかった。イリアエルは慌ててその後を追った。
「心がどこにあろうとも! 心が何を映し出そうとも、俺はここにいるんだ! それを信じないなら、他の誰をも信じられない! ならば何が信仰なんだ! 何がクルなんだ!」
マセルはどこへ向かっているのかも考えずやみくもに進んだ。イリアエルも後を追った。光源は次第に深くなるように思えた。いつの間にか二人とも半ば泳ぐような体勢で、ただ夢中で進んでいた。
「俺はクルを信じる! だから……俺は俺の役割を裏切れないのだ! 愚かであろうと、理不尽であろうと。すべてが人間の解釈であろうとな!」