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クセルは、眠るとき以外はほとんどいつも会衆の仲間たちに囲まれて過ごした。しかし実はクセルは内心では少なからず警戒していた。
それは一つには、天国では人々は互いの心を読み取ることができるようになると聞いたからである。そしてクセルはまだこのやり方を会得できていなかった。つまり今は周囲の全員がクセルの考えていることを容易に知ることができるのに対し、クセル自身は相手の心が隠されているという状態にある。一見だれもが心から自由に振舞っているかのように見えるが、来たばかりのクセルにはそれがどこまで信用してよいものか判断する術がなかった。
これは憶測にすぎないが、自分の願望や欲求が周囲のものから見て、況やクルの目から見て万が一否とされたら、それによってどんな裁きが下されないとも限らない。
「そんなことはない。安心しろ、クセル」
親しかった者たちは口々にそうなだめるが、不安は拭いきれなかった。というのも、クセルが警戒する理由がもう一つあったからである。
それはマセルの話をしたときに感じた、つまり会衆の仲間だった者たちにマセルの話をしようとした場面で彼らが一瞬見せた奇妙な反応のことであった。
マセルの死と、それによって信仰を守り得た自分たちの生きた経緯は知っているはずである。クセル自身は生前ずっと葛藤してきたし、会衆の中でも事あるごとに話してきたのだから、いくら再会の喜びに浮き立ったからと言って、酔っていたと言って、あのような軽々しい言葉が吐けるだろうか。譲って考えて、天国に暮らしているうちに一部の者が何かマセルの行動について否定的な見解を持つに至っているとしても、少なくともあのように茶化し、はぐらかしてよい話題であるはずがない。クセルは、現世では会衆の全員が前提的に抱き共有していたと思っていた、信仰に対する真剣さ、それが、ここではなぜか失われているように見えて怖かった。
クセルはしかし、この気持ちを何とか振り払おうとした。そしてマセルのことは一切語らないようにした。考えることさえ努めて抑えようとした。そして、疑心暗鬼でいることを悟られないように、いや、できればそんな思い自体が消失してしまうことすら願いながら、一見きわめて愉快に、快活に振舞った。