表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国のマセル  作者: 中至
イラの本性
264/292

しかし、仲間に囲まれて笑っていたクセルが突然


「うああ! あう!」


と大きな呻きを上げ始めた。誰もが驚いてクセルを見た。クセルは何度も呻きながら前のめりに両手を床について四つ這いになった。


「あ……うわっ、うっ」


クセルの異様な呻きが続いた。意識ははっきりしているようだが苦しそうに見えた。仲間の一人が支えて起こそうとクセルの背中に手を当てた。するとクセルは


「触るな!」


と鋭く言った。仲間たちは驚いて見守った。クセルは断続的に呻きながら、それでも自力で立ち上がった。ゆっくり、足を引き摺るように部屋を出て行った。仲間たちは何が起こったのか分からないまま、訝りながらもクセルを囲むようにしてどやどやとその後を追った。


取り残されたリギルとイラも、もちろん何が起こったのか分からなかった。だいたいリギルは今のクセルの様子をほとんど見ていなかった。イラは最初呆気に取られたようにそのまま床に突っ伏していたが、しばらくするとはっと思い出したように起き上がると、慌ててリギルのそばに駆け寄って、リギルの両方の肘辺りを自分の両手で掴んで言った。


「リギル、大丈夫? ねえリギル」

「たっ……痛い、イラ」


リギルは右手にまだ残っている痛みを感じて呻いた。


「ああ……俺はもう大丈夫だ」


無事だったか? と続けようとしてリギルは言葉を飲んだ。ここへ向かう途中感じたイラの心の変化が蘇った。冷静に言えば、それは無事であろうはずがなかった。


イラはしかし真っ直ぐにリギルを見つめていた。その顔は今も穢れない少女のようであった。リギルは見つめ返しながら思った。


「そうだ。このイラが男と交わったのはこれが初めてではない。そもそもイラは引き受けなのだ。初めから分かっていることなのだ。それでも俺はこの女を愛す……


『私、自分のことがよく分からなくなったの』


そうだな。仕方のないことだ。だって俺にも分からない。心など……本当のところは誰にも読めないのだ。自分自身でさえ。いや……こんなものは読む必要すらないのかもしれない。


イラ。


……俺は信じる。君を。


『リギル』



二人は胸と胸を合わせて互いを抱き締めて、長い間そうしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ