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しかし、仲間に囲まれて笑っていたクセルが突然
「うああ! あう!」
と大きな呻きを上げ始めた。誰もが驚いてクセルを見た。クセルは何度も呻きながら前のめりに両手を床について四つ這いになった。
「あ……うわっ、うっ」
クセルの異様な呻きが続いた。意識ははっきりしているようだが苦しそうに見えた。仲間の一人が支えて起こそうとクセルの背中に手を当てた。するとクセルは
「触るな!」
と鋭く言った。仲間たちは驚いて見守った。クセルは断続的に呻きながら、それでも自力で立ち上がった。ゆっくり、足を引き摺るように部屋を出て行った。仲間たちは何が起こったのか分からないまま、訝りながらもクセルを囲むようにしてどやどやとその後を追った。
取り残されたリギルとイラも、もちろん何が起こったのか分からなかった。だいたいリギルは今のクセルの様子をほとんど見ていなかった。イラは最初呆気に取られたようにそのまま床に突っ伏していたが、しばらくするとはっと思い出したように起き上がると、慌ててリギルのそばに駆け寄って、リギルの両方の肘辺りを自分の両手で掴んで言った。
「リギル、大丈夫? ねえリギル」
「たっ……痛い、イラ」
リギルは右手にまだ残っている痛みを感じて呻いた。
「ああ……俺はもう大丈夫だ」
無事だったか? と続けようとしてリギルは言葉を飲んだ。ここへ向かう途中感じたイラの心の変化が蘇った。冷静に言えば、それは無事であろうはずがなかった。
イラはしかし真っ直ぐにリギルを見つめていた。その顔は今も穢れない少女のようであった。リギルは見つめ返しながら思った。
「そうだ。このイラが男と交わったのはこれが初めてではない。そもそもイラは引き受けなのだ。初めから分かっていることなのだ。それでも俺はこの女を愛す……
『私、自分のことがよく分からなくなったの』
そうだな。仕方のないことだ。だって俺にも分からない。心など……本当のところは誰にも読めないのだ。自分自身でさえ。いや……こんなものは読む必要すらないのかもしれない。
イラ。
……俺は信じる。君を。
『リギル』
」
二人は胸と胸を合わせて互いを抱き締めて、長い間そうしていた。