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「タミルノ。でも、どうして今なんだ?」
「ああ、俺も信仰についてはずっと考えてはいた。しかし、正直言って、どうしていいか分からなかった。それに、なぜか知らんが俺には特別な役目がある。その意味をずっと考えていたんだ」
「特別な……ああ、つまり、俺のように地獄に送られてくる人間を世話するということか」
「だがな、実はマセル。お前が来たとき、奇妙なことが起こった」
「?」
「お前はな、マセル……お前は、おそらく地獄に送られてくる最後の人間なんだ」
マセルは、言っていることがよく分からなかったのでタミルノの心を読んだ。
タミルノがこの世界に送られてくる人間たちを、この世界で生活できるように世話していることはマセルも知っていたが、それはタミルノに与えられた特別な力が関係しているようだ。つまりタミルノだけは、次にいつごろ誰がこの世界に送られてくるかということが分かるらしい。
「クルのお告げでもあるのか……?」
マセルは不意に口にした。タミルノはそれに答えず、黙って心を読ませた。
これはお告げのように不定期に啓示されるのではなく、タミルノは別に意図せずとも当然のように、自分でもいつから知っていたか分からないほど自然にそれが常に意識に現れているらしい。タミルノはこの力はクルの意志によるものだと信じていた。それはつまりこの任務がクルのご意思であることの証拠だと感じていた。だから現状の生活を大きく乱すことはその意思に背くことかもしれないと考えて、自分の役目を忠実に守ってきた。
だが、マセルがここへ来たときに事情が変わった。それは、マセルが現れた時点で、タミルノの中で「次にいつごろどんな人物がこの世界にやってくる」という意識が消えてしまったからだった。こんなことは今まで一度もなかったのだ。どんなに遠い時期であれ、タミルノには常にその情報があったのである。しかし、あえて意識して考えようとしてみても、この次には、どれくらいの間隔を置いて人がこの世界に来るのかというのがタミルノの意識にまったく浮かんでこなくなった。いや、しかしそれはこの力が消えてしまったのではない。
マセルは何と言葉をかけてよいか思いつかず同情するようにタミルノの顔を見た。
「非常に感覚的なものだが俺には分かる。俺にその力がなくなったんじゃなくて、力を使うべき対象がもういないんだ。もうだれも、ここへはやってこない」
もうこれ以上だれもこの世界にやってこない。つまり、この世界にはもうこれ以上人間は増えない。タミルノがそれを知ったときに受けた戦慄のような、絶望のような感覚をマセルは読み取った。そしてマセルは、この事態からくるタミルノの推測を感じて自らもまた戦慄を覚えずにはいられなかった。つまり、タミルノの感じ方が正しいのだとすると、これが意味することはつまり
「クル教が……滅んだ……?」
いや、これは確かに一つの可能性であり、推測にすぎない。現世の様子まではだれも分からないのだから。二人は黙って歩いた。空は相変わらず日暮れとも夜明けとも取れる色をしていた。