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その場の全員がタミルノの唐突な申し入れに目を見開いた。マセルは反射的にタミルノの心を読み取った。一瞬のことだったので詳しい意図までは分からないが、タミルノが本当にアジョ派に協力しようと考えていることは確認できた。
ナモクは満面笑顔だった。ナモクはおそらく最初からタミルノの意識の動きに集中していたのであろう、そのためにイリアエルに語らせ自分は黙って伺っていたのだ、とマセルは今になって気が付いた。
「よく言ったタミルノ。これでこの世界の歴史は大きく前進するだろう。そうなれば早速だが……」
タミルノは落ち着いたまま遮って言った。
「いや、今日のところはこれを伝えに来ただけだ。身近な者たちともよく相談しておくから、あらためて訪れるがいい」
タミルノは席を立ってナモク、イリアエルとそれぞれ握手を交わすと、足早に部屋を出た。マセルは一瞥もせずタミルノに続いた。アジョ派の会所から市場へ続く道を、マセルはタミルノと並んで歩いた。
「いきなりで驚いたよ」
「ああ、別に何も隠していたわけじゃないんだが、まあ、どちらにしろ……マセル、お前はまだここに来たばかりで、様子が何も分からないと思っているだろう。だが、実は俺たちだって状況はほとんど変わらないんだ。まあ暮しには不自由しないが、さっきイリアエルが言ってた通りだ。俺たちはどうして地獄に来たか、そして、ここで何が行われているのか……」
「つまり、これが現世で俺たちの思い描いてたクルへの信仰とどう関わってるのかってことが?」
「ああ」
マセルは少し考えてから言った。
「これがクルから与えられた罰なのかもしれないな……ここには何の苦痛も、迫害も、死に対する恐怖もない。しかし、クルがいない。クルのお考えが分からないまま、俺たちはここに永遠に留め置かれる。これそのものが罰なんじゃないのか?」
「……そうかもしれんな。クルを知る者はみな天にある。俺たち地獄の住人は、永遠にクルを知ることができないというわけか。そうかもしれんな」
マセルはまた少し考えてから言った。
「……いずれにしろ、人間の勝手な解釈に過ぎんな」
ふたりはゆっくりと歩き続けた。