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アジョ派の本拠地は、ちょうど市場を挟んでタミルノたちの居所と反対側にある。約束の日、タミルノはマセルと連れ立ってナモクのもとを訪ねた。
会談の席にはタミルノとマセル、アジョ会衆からは統治長ナモクとその腹心イリアエルが座した。ナモクはわざとらしく両腕を広げて歓迎の意を示そうとしたが、マセルはそれを全く意に介さず勝手に席に着くと、いきなり本題に入った。
「まず問う。アジョというのは何のことか」
イリアエルはちらりとナモクのほうを伺うと、応じて言った。
「アジョとは、私たちが生前住んでいた場所だ。言っておくが、私たちは何も自分からアジョと名乗っているのではない。お前たちが勝手に私たちをアジョ派と呼んでいるだけだ」
「なぜ組織のようなものを作る?」
「会衆を統率せねばなるまい。私たちは長い間ここに暮らしているが、ここでの暮らしぶりはどうだ? お前ももう知っていると思うが、タミルノたちはただ食べ、飲み、寝、それぞれが思い思い好き勝手に過ごしているだけだ」
「それの何が悪い?」
「愚問だ。それが信仰と言えるか? この世界がどこまで広がっているのか、他の地域に人間はいるのか、本当にここはクルの信徒だけで成り立つ世界なのか……そもそもなぜ俺たちだけが地獄に集められているのか? 俺たちは、実はいまだに何も分かっていないではないか」
ナモクはイリアエルに語らせたまま黙って聞いている。マセルは続けた。
「だからと言って、なぜ統率が必要なのだ? 」
「信仰とは何だ。俺たちはクルの意志を知らなければならない。それを自ら求めようとしないなら信仰は形だけではないか? 俺たちは試されているのだ。だがお前たちは日々の安寧に甘んじて何も分かろうとしない。これはお前たちを導くために必要な統治だ」
マセルはこれ以上質問するのをやめ、口元に手を当てて俯いた。これを見てイリアエルも引いた。
おそらく、今イリアエルが言ったことは、すでにナモクとタミルノの間で何度となく交わされた議論のほんの一部に過ぎないであろうとマセルは思った。確かに独善的な感じもするが、しかし一考に値する主張のように感じられた。
むしろマセルは、タミルノがこの主張をまったく顧みなかったとしたら、それはなぜなのか、そのほうが気になった。タミルノは、最初の動機がどうであれ統治は権益を生んで妬みや争いを引き起こし、今の平穏な生活が脅かされると考えているのだろうか。いや……タミルノはそういう人間ではないような気がする。それに、もしそうなら、すでに一部の住人たちを統治しているアジョ会衆の存在をそのままにしておくことがおかしい。マセルはタミルノの心に意識を集中しようとした。そのとき不意にタミルノが言った。
「ナモクよ。これからは俺もその統治に協力しよう」




