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「ほう……珍しい客人じゃな。お前さん直々とは、いったい何用じゃ」
ウリウスは嫌味を込めて言った。ウリウスを訪ねてきたのはグライという初老の男で、引き合わせの者たちの中でもかなり名の通った有力者であった。
「用というほどのことでもありませんウリウス師。このところ接見を中断していると聞きましたが、ついに酔狂にも飽きましたかな?」
「ふん。つまらん挨拶はいらん。読むのも面倒じゃ、さっさと用事を言え」
「隠し立てのしようもないが……ウリウス師。最近あちこち嗅ぎ回っているようですが?」
「ふ、それがどうした。儂の勝手じゃろうが」
「それがそうも行きません。正直言って……目障りだ」
「どうした、いつになく焦っておるようじゃな。いい気味じゃ」
グライは軽く舌打ちした。
「なぜ調整を認めないのですか?」
「何が調整じゃ? お前たちの独りよがりじゃろう? クルは裁くものを裁くと言っておる! 調整されるべきはお前たちのほうじゃ」
「何度言えば分るのですか。我々引き合わせの者は調整されないのだ。知の王と讃えられるウリウス師がなぜお認めにならない」
「またその言い草か……儂も何度も言うがな、お前たちこそなぜ認めん。そもそも教義など不要! クルがいつ信心を求めたか。そんなこと十言のどこにあるのじゃ?」
「……十言は、現世での教えです。我々を信じないならクルの御意思を蔑ろにするも同じことです」
ウリウスはあからさまにうんざりした表情を作った。いつもと同じ問答をするためにわざわざ訪ねたのではなかろう。そう訴えるように目を逸らしたままため息を吐いた。
「……あの者は今までとは違うのです」
「リギルか?」
「このままではもっと綻びが広がってしまうだろう。それに」
グライは少し躊躇っているようだった。ウリウスは少し様子がおかしいので向き直ってグライをまっすぐに見ると、促した。
「言ってみろ。グライ」
「ウリウス師、お気付きか? もうかなり経つが……あの者が現れてから以後誰も天に復活していないのです。ウリウス師。おかしいとは思わないか?」