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天国のマセル  作者: 中至
タミルノの真意
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人が喫煙する最大の理由は退屈である。アジョ会衆の統治長ナモクは喫煙する男だった。


ナモクは、なんとしてもタミルノの懐柔が必要だと考えていた。タミルノが対抗勢力の中心的な存在だからというだけでない。タミルノは唯一、この地に死者を招き入れる特権を持っていたからである。実は、マセルが死んでこの世界で目を覚ましたとき世話を受けたのがタミルノだったのは偶然ではない。マセルだけでなく、この集落にいる全員がそうなのである。アジョ会衆の統治長ナモクすら例外ではなかった。


生前ナモクが属していた会衆はかなり規模が大きく、新たな入信者も増え続けていた。ナモクたちは会衆内に組織的な管理体制を確立するべきだと主張していたが、これに反対するものも多かった。その頃から会衆の人々は信仰上の是非をめぐってたびたび争うようになり、派閥を成して反目しあうようになっていた。


ナモクは50歳を過ぎて病死した。そして地獄に来たとき、ナモクは驚愕し、また時とともに絶望せざるを得なかった。なぜなら生前ナモクの一派に属していた者たちだけが死後こちら側に現れることに気が付いたからである。生前敵対していた人々のほうが天国に行ったものと解釈するしかない。つまり、クルの目から見てナモクたちは否とされたに違いないのだ。


最初の頃ナモクはそれを納得できず、タミルノを相手にとくとくと自説を語ったものだった。そしてこの地獄で自分の信じる体制を再現しようと仲間を募りアジョ派の母体を作った。貨幣の流通、クル神像の常時携帯、生産物と市場の一元管理などを通してアジョ派は次第に勢力を拡大し今に至っている。


ナモクの最終的な目標はこの地にいる全員をアジョ会衆の統治下に置くこと、つまりこれを単なる派ではなく唯一の統治機構とすることである。しかし、新たな死者が常に最初に接するタミルノがこれに参画していないのは決定的な障害と思える。


ナモクはタミルノを説得しようとしてきたがタミルノはまったくそれに取り合おうとしなかった。だが、今回タミルノはマセルの同行を条件として話し合いに応じる意向を示した。ナモクはタミルノ懐柔の契機を掴んだと喜ぶ一方で、タミルノが特に挙げたこのマセルというのはいかなる立場で、いったいどういう人物なのだろうかと警戒せずにはいられなかった。

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