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「違う……」
長い沈黙をマセルが破った。
「……おお、もう喋れるか!」
一人がそう言うと止まっていた時が再び刻み出したかのように仲間たちは一斉に顔を上げてマセルの様子を見た。まだ起き上がれないもののマセルはしっかりを目を見開き、意識も相当はっきりしてきたように見えた。現世ではあり得ないほど急速に回復していた。それを目の当たりにして仲間たちは半ば驚き、半ば喜びにざわと胸が湧くような思いがした。おそらくそのように作られているのだ。肉体も。精神も。
しかしイリアエルはぬくりと体を翻すと半ばマセルの上に覆いかぶさるようにしてマセルを見下ろすと挑発するような口調で言った。
「何が違うんだ? マセル。いいんだぞ、恥ずかしがらなくても」
しかしマセルはほとんど反応しなかった。仰向けに倒れたまま。しかしその眼は避けることもなくまっすぐにイリアエルの顔を直視していた。イリアエルはむしろ自分自身が恥ずかしい気持ちになり、マセルから目を逸らして立ち上がった。
マセルは心の中で笑っていた。それはまるでイリアエルの大人げない言動を嘲るような、弄ぶような感情にも見えた。しかし仲間たちはすぐにそれが単なる軽蔑や嘲笑ではないことに気が付いた。なぜなら真に親密な友とはそのようなものだからだ。いつの間にか二人が互いにすべてをまっすぐに見せることができるほどになったのだと思った。
「イリアエルよ。俺は別に……リギルたちが恋しいわけでも、懐かしいわけでもない」
「は、そうかい。ならいったい何だというんだ」
「そうだな……何か……そういうこととは違うが、しかし、そう言われると俺は確かに避けていたような気もする。あいつらのことを思い出すのを」
「ふん、それは思い出すと辛いからだろう。それをふつう寂しいというのだ。己の弱さを素直に認めろ。マセル」
「いや、イリアエル。俺だって寂しいというのがどういう感情なのかくらい分かっている。しかしそうじゃなく……」
「煮え切らんな、お前らしくもない。それも怖れのなせる業か。半端な」
イリアエルの口調は一見棘があるようにも聞こえた。しかし仲間たちは二人の言い分を温かく見守っていた。それはまるで子供同志のじゃれ合いのように直接的だが悪気のない言葉の投げ合いであることは明らかだった。
「俺も他人のことは言えんが、お前もたいがい弱虫なんじゃないか」
マセルは急にじっと黙った。しかし怒っているわけではなかった。マセルは弱さという言葉に何か今までと違う感触があるように思った。
「弱さ……俺は弱いのか?」
マセルが声に出さず心の中で一人確かめるように思った。声に出さずとも全員がそれをそのまま読めた。マセルはそれ以上話さなかった。