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案の定マセルは突然生き返ったかのように素早く。
「んは!」
マセルは両方の掌底でイリアエルの顔面を打ちに行った。しかしイリアエルは自分の両腕を交差させながら突き上げ、マセルの両腕を下から跳ね上げた。マセルの顎が上がり重心が後ろに傾いた途端、イリアエルは
「ふぉぎゃおわっ」
と気を吐きながらマセルの胸から下腹にかけて流れるように連続で拳を入れた。
「ぐっうっうっうっうっぉっう」
撃たれた数の呻きを残してマセルは尻と頭とを地面に打ち付けて倒れた。これがもし……現世でのことなら死んでいるだろう、と見ていた全員が思った。
イリアエルがゆっくりと見下ろして言った。
「……まいった、か?」
マセルは意識は失っていないものの全身の痛みで動けなかった。
「……」
一度ゆっくりと息を吸い込んで、その後深い呼気とともにマセルは僅かに唇を動かした。
「……まいった」
イリアエルはすぐにマセルの首の下に腕を入れて抱き起そうとしたがマセルは
「うぉっ! いっ……」
と呻いたので起き上がらせるのを諦めてもう一度静かに横たえると、イリアエルは自分もマセルの横に仰向けに寝転んで両手を突き出して大きく伸びをした。
「……俺もまいったぞ、はは」
イリアエルは顔だけをマセルのほうに向けて言うと、笑った。マセルは痛みで反応できないようであった。
その周りを仲間たちが取り囲むようにして、だれからともなく、まばらな拍手が送られ始めた。長い間止まなかった。




