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仲間たちが談笑する声がかすかに聞こえる。マセルは一人座り込んでまた同じようなことを考え続けていた。その姿はうな垂れて力なく、眠っているかのように俯いたままじっと動かない。
「おい! 何をうだうだ考えている?」
いつの間にかイリアエルがすぐそばにいて、いきなり声をかけたのでマセルはびくと跳ねたが、何も答えず目を合わせようともせずじっと俯いて座ったままだった。
少しの沈黙の後に、イリアエルがふと思い出したように笑ったのでマセルは初めて顔を上げた。
「何を嗤う」
「いや……前にお前が言ったことだ。俺には本気で考える力などないと。あの言葉、今お前に返してやろうか?」
マセルはまだじっとイリアエルを睨むようにして黙っていた。
「ひとつ教えといてやろう。頭の中で考えてもすぐに行き詰る。所詮今あるものでしか思考できないんだ、俺たちは。本気だろうと何だろうと」
「つまり外に目を向けろと言うのか……正論だな」
「そういうことだ。俺も、みんながいなかったら今もずっと迷ったままだったろう。理由とか意味とか……そんなもの心の中からは出てこない。違うか? マセル」
そうかも知れない、とマセルは思った。自分で考えると言っても、他人の考えを聞き、周囲の状況に目を配ることなしに一体何について考えればいいのか? むしろそうしないと何をも選べないではないか。
「ふん、一日の長というやつだな。余計なお世話だが」
「……相変わらずの減らず口だ。はは。しかし、余計なお世話だろうが、お前ならきっとこうするだろうと思ってな」
イリアエルは初めマセルが一人で思案しているのを何も言わず静かに見守るつもりだった。しかし思い直した。何を躊躇う必要がある。むしろ他ならぬマセルがそうなのだ。マセルは、こいつは、まったく遠慮なくいつもずけずけと人の悩みや迷いに口を出しては、自分の解釈を人に押し付けるのだ。平気な顔をして淡々と。そしてこう言うのだ。イリアエルは以前マセルが言ったことをなぞるように続けた。
「マセルよ、ここでは現世のような遠慮は必要ないのだろう? ここにいる俺たちはみんな強いのだから」
互いに顔を見合わせて笑った。イリアエルはマセルの手を取って立ち上がらせた。
「マセルよ。お前は少しは悩むくらいがちょうどいいのかもな。時間はあるんだ。急ぐ旅じゃない」
「そう。時間はいくらでもある……俺にとってはそれが問題なんだ」
マセルもそう言って、土を払うと身構えた。イリアエルが一度深く呼吸して、すでに闘う構えを取っていたからである。