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「キダ先生、しばらく光源いじりは中断だ。やはり俺もマセルと行くことにした」
イリアエルは光源の加工について相談するようになってから、キダのことを先生と呼んでいた。
「そうなのかい? そりゃ良かった」
「何が良いんだよ」
「や、せっかく採ってきた光源をあんたが無駄遣いしなけりゃ、みんな助かるんでな。はっはっは」
キダは自分の冗談に笑った。
タミルノが声をかけた者のうち数名が参加を拒んだ。いよいよ出発となったが、わざわざ見送りに出たものは僅かだった。多くの者が、隊はそれほど遠くまで離れず、ほどなくして戻って来ると予測していたからである。
空はだだっ広く夜明けとも日暮れとも取れる色をしている。行く当てがあるわけでもない。ただ平坦な赤土色の地面が続いている。
マセルは自分から何を指図するわけでもなく、仲間の様子を按ずるでもなく勝手に進んだ。イリアエルは隊が通った道に跡を付けるために棒を引き摺りながら常にしんがりを歩いていた。それで、いつの間にか隊はマセルが先頭にぽつんと一人でおり、その後を仲間たちがだらだら固まっており、また少し離れてイリアエルがぽつんと一人でいるような格好になった。
イリアエルは、その意を掴もうと時折マセルの心を探ったが、たいていマセルは自分がこの地に復活してから今までに起こった様々な出来事を回想しているようだった。イリアエルは、マセルがこれから先どうしたいのか、どこまで行くつもりなのかといったことについてほとんど何の案も持っていないことが心配だったが、そっとしておいた。
他の仲間たちは一見至って呑気に見えた。初めはマセルの意向を聞こうと入れ替わり声をかけていたが、マセル自身がはっきりした考えなどないことはすぐに分かった。仲間たちは凡そ黙認した。隊の仲間たちはそれぞれ、それなりにマセルの素行や性向を知った上で隊に加わった者たちである。マセルがこの地に復活した最後の者だということも知っている。何よりそもそも急ぐ旅でもないし、早く帰らなければならない理由もまた見当たらない。
だれかがいつの間にか進むのをやめて座り込んで休み始める。すると他の者もそれに合わせてその場に座りこんでしまう。こうなると先頭のマセルもしばらく止まらざるを得ない。しかしその時でも、マセルは咎めるでも労うでもなく、たいていその場にぽつんと座ったままで、自分から仲間のほうに近付くことはなかった。
マセルはこの地に来てからのことを振り返ろうとしていた。と言うよりも、それを通して自分が今ここにいることの意味を見出したかった。あくまで人間の解釈。しかしそれを、少なくともそれを自分自身が信じるに足ると本気で確信するならばそれで良い。
「問題はあくまで俺自身だ。与えられた道を探すのではない。俺がここで、これから何をして生きるのかを……俺自身が決めるべきなんだ。
他にどうしろというのだ? クルは裁くものを裁く、しかし……俺は生かされているんだ。これは裁くということではないはずだ」
マセルは、それが信仰というものの本質ではないかと考えていた。しかし、マセルにとっての問題は、図らずも与えられた永遠という時間であった。
「ここは現世とは違う。俺は、死ぬことで初めて意味を得たのだ。だがここには死すらない。もう終わりはないんだ。ここには、終わりなど存在しない。永遠の前には、クル像を討って死を選んだことも……戯れ事に過ぎん。
なぜ俺は、ここに最後に復活したのか。じっと待っているだけならば時は止まっているも同然なのだ」